日本のあらたな天然素材をPR
大阪・関西万博で、にわかに注目を集めている新素材がある。医療スタッフが着用する生成り色(※)のユニフォームの素材である天然繊維「木糸」だ。開発したのは織布会社の㈱和紙の布。社長の阿部正登氏(67歳)によれば、この木糸の最大の特徴はスギやヒノキなど針葉樹の間伐材を再利用した木材100%の和紙を漉いてできていること。「綿やウールのように輸入に頼らず、国内生産でまかなうことができる。軽くて通気性や抗菌・防臭性に優れ、毛羽がないので敏感肌の人にも適している」という。
その開発の発端は約15年前、林野庁の「間伐材の有効利用」をテーマにした会合で「間伐材から服をつくってはどうか」と阿部社長が提案したこと。以来、同社は紡績や撚糸、製紙会社などに協力してもらい、4年の歳月をかけて、布の元となる「木糸」を完成させた。間伐材を粉砕加工したチップを溶解し、抽出したセルロースからつくった和紙を1~4mm幅に細く裁断して撚糸するとできあがるそうだ。
ちなみに、同社はかつて「マニラ麻が原料の和紙から布をつくる技術」の開発に取り組んできたことがあるそうだ。それが木糸の技術開発にも生きているという。「かつて泉州南部の織物産地は安価な輸入品に押されて厳しい経営を強いられていた。その頃、生き残りをかけて綿の20倍もする高価なマニラ麻による生地づくりにチャレンジして成功した」と阿部社長は振り返る。
軽くて通気性や抗菌・防臭性に優れた万博ユニフォーム
こうして培ってきた技術をベースに、木糸の可能性の拡大に取り組んできた。木糸は伸度がないので「縦糸に綿、横糸に木糸を使った」と阿部社長。さらに和紙原料の配合率を調整したり、木糸に綿糸を巻いて強度アップをはかったりと改良も重ねたという。
原料についても何度となくテストし、地元に近い河内長野市から調達しているという。8年前には3・11の津波で枯死した「奇跡の一本松」(岩手・陸前高田市)の木片から布をつくってみたり、吉野杉(奈良)や多摩材(東京)を活用したこともあるそうだ。最近は「『思い出の樹や神社仏閣で育った樹から布をつくってほしい』という依頼もくる」そうだ。
そして今回、万博のユニフォームとして採用された。素材は大阪材と根羽村(長野)、上勝町(徳島)、天草・小国町(熊本)の4カ所からの材を使用している。これは大きな転機になるのではないか、と手ごたえを感じる阿部社長は「暑いなかでの快適さをモニタリングし、成果をフィードバックして海外にPRしたい」とし、さらに「あらたな発想の天然素材を開発し、全国に広げたい」と意気込んでいる。
※ 生成り色……染色や漂白をしていない天然素材本来の色味
㈱和紙の布
大阪府阪南市下出305-1 TEL:072-473-3102 設立:1962年
従業員:5名 資本金:300万円
髙瀬 直さん
(公財)大阪産業局 イノベーション創出支援チーム
阿部社長の情熱と信念が、地球にやさしい「木糸」を実現しました。和紙 100%の生地開発にはじまり、間伐材を活用した木糸の開発にも成功。 SDGs が注目される以前から環境問題に向き合い、今ようやく時代が追いついたといえます。木糸は環境に配慮した製品として社会的価値が高く、幅広い分野での展開が期待されています。阿部社長の力強い志を心から応援しています。
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