アーバンスポーツが地域にもたらすメリット
東京2020オリンピック大会でアーバンスポーツが注目を浴びて以降、全国各地にスケートパークなどがイッ気に増えた。NPO法人日本スケートパーク協会(東京都)の調査によると、2017年に全国100カ所だったスケートボードの公共施設は2021年6月時点で243カ所にまで膨れ上がっている。とくに自治体が設置する例が増えているという。だが、スポーツ庁は従来から「スポーツによる地方創生、まちづくり」を推進するにあたって、地域において自治体やスポーツ団体、民間企業からなる「スポーツコミッション」の常設を呼び掛けてきた。大阪体育大学学長で一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構の原田宗彦会長(68歳)によれば「このスポーツコミッションが『スポーツツーリズム』や『地域スポーツ大会・イベントの開催』、国内外の大規模な『スポーツ大会の誘致』、住民向けの『地域スポーツクラブの運営』『健康増進・地域交流イベントの開催』などを一手に担うことで、地元に真水の経済効果が生み出されていく」という。また「子どもから大人、アマからプロの競技者まで、皆が同じ
フィールドで練習に取り組めることがアーバンスポーツの良さ。その良さがあらたなコミュニティを創出し、若者のスポーツばなれを食い止め、住民に健康意識をもたらすのではないか」とも。
まさに良いことづくめだが、スポーツコミッションを立ち上げるのはそう簡単ではない。「相当のハードルがある」と原田氏。かといって自治体単独で施設やスポーツイベントを継続的にマネジメントしていくのも難しい。なかには「流行りに乗って、関連補助金を活用し、スケートボードパークをつくってみたら、騒音対策として辺鄙なところへ施設をつくり、利用者がほとんど来ないままになってしまった例も出てきている」そうだ。
原田宗彦氏
大阪体育大学学長、一般社団法人日本スポーツツーリ ズム推進機構会長
官民一体でつくりあげる「スケートボードのまち」
シッカリ地域に根づき、持続的に経済効果を生み出すアーバンスポーツ振興を目指している事例として、茨城県笠間市の取
り組みを紹介したい。市内にある県営笠間芸術の森公園の未供用区域を活用した国内最大級のスケートパーク「ムラサキパークかさま」がオープンしたのは2021年4月のこと。同市都市建設部都市計画課によれば、開園初年度はコロナ禍による影響を受けながらも「年間目標1万人に対して約1万6000人が入場し、その大半が若年層で、市外からの利用者が約9割だった」と実績は上々。さらにその外来者の半数が「市内での食事やお土産を購入した」というアンケート調査も。「地域への経済効果が着実に出てきている」と市の関係者も話している。
この好調のウラには、当然のことながら明確なビジョンとそれを実現するための努力がある。聞けば、笠間市では「スポーツシティ かさま」を掲げ、「アーバンスポーツの普及とスポーツを活用した地域経済の活性化」に積極的に取り組んでいるそうだ。その推進にあたっては「市、㈱ムラサキスポーツをはじめとするスポーツ・観光関係業者によって『笠間スポーツコミッション』を立ち上げ、BMX歴28年の経験を持つ大島実氏を地域おこし協力隊として迎え入れるなど、地域外の協力により、外部からの目線もプラスした事業展開を行っている」(市教育委員会教育部生涯学習課スポーツ振興室)そうだ。その成果としては昨年、「2021年度日本スケートボード選手権大会」をムラサキパークに誘致、東京オリンピック金メダリストらが出場する日本最高峰の戦いを観戦するために県内外から大勢の来場者が集ったほか、「2022年度も市によるスケートボード大会の実施を予定しており、開催時には観光情報などを来場者に向けてPRし、さらなる地域活性化に努めていく」という。もちろん、小中学生向けスケートボード体験教室や小学校校外学習など、アーバンスポーツの地元愛好者を増やしていくことにも注力している。おかげで「スケートボードのまちのイメージが徐々に定着してきている。今後もムラサキパークかさまを核としてスポーツシティ かさまのブランディングをすすめていきたい」と担当者は意気込んでいる。
(※ 本記事は月刊『コロンブス』2022年6月号特集記事の冒頭抜粋版です。この後、自治体主導型ではなく地元の民間の担い手たちがつぎつぎとアーバンスポーツ推進にチャレンジしている例として、長野県小布施町の動きなども紹介しています。全特集記事と関連記事はぜひ同誌をご覧ください)