10数年におよぶ研鑽と情熱で、国産宇宙ロケット産業へ進出
かつて日本有数の「鋳物の街」として栄えた埼玉県川口市。しかし、1970年代のオイルショック以降、新素材の登場などの影響もあり鋳物の需要は低迷し、多くの町工場が業態転換や廃業を余儀なくされた。内田精研㈲もまた、80年代初頭に「アルミ鋳造」から「精密機械部品の研削加工」へと事業転換をはたした。
2代目の内田行彦社長は「当時は川口近郊のメーカーから幅広く仕事を請け負っていたが、正直、何に使われる部品なのかよくわからないまま指示通りに加工して納品するだけの案件も多かった。もっと世界的な企業と連携して、夢のある仕事をしたいと思った」そうだ。さっそく、内田社長は子どもの頃から憧れていた「宇宙ロケット」の開発に携わろうと、関連メーカーに営業の電話をかけた。が、「当時は大した実績がなかったので、まったく相手にしてもらえなかった」という。そこで、夢の実現に向けて実績とノウハウを蓄積することを決意。精密計測機器や液晶装置などの大手メーカーを中心に営業をつづけ、あえて難易度の高い仕事を積極的に引き受けた。「なかでもCDやDVDなどの光ディスク用の金型部品加工の仕事では大いに鍛えられた。ミクロン単位の精度が求められ、技術力の向上だけでなく仕事のすすめ方でも学ぶことが多かった」という。
こうした10数年におよぶ研鑽が実を結び、2006年にはついにロケットエンジンをはじめ航空宇宙部品の仕上げ加工を請け負うことになる。「長年の宇宙産業にかける情熱とやる気をメーカー担当者に買っていただいた」と内田社長。以来、現在にいたるまで国産宇宙ロケットに同社が手掛けた部品が使われつづけている。
チャレンジで生まれる“ワクワク”こそが源、DX化にも着手
さらに、あらたに掲げた「F1への参入」という目標も13年に達成。ホンダのFIエンジンに、同社が手掛けた部品が使われたのだ。「やはり社員のモチベーションを高めるためには〝ワクワク〟を経営の中心に据えて、新しいことにどんどんチャレンジするのが大切。これからも業界を選ばずに挑戦をつづけていきたい」とみずからを鼓舞する。ここ数年は、とくに半導体製造装置の部品加工の依頼がたえないそうだ。
「最近、工場を新設して2拠点体制になったのをキッカケにDXにも取り組みはじめた。若手社員が中心となって生産管理アプリを開発し、両拠点の稼働状況などの〝見える化〟を実現した。今後も若い社員のアイデアを積極的に取り入れながら、業務改革をすすめていきたい。社員が楽しみながら働ける環境を追求していくことがあらたな挑戦にもつながる」と内田社長は目を輝かせる。

内田精研㈲
埼玉県川口市南鳩ケ谷7-17-24 TEL:048-281-4987
設立:1982年 従業員:14名 資本金:500万円
HP:https://uchida-seiken.com/

倉崎哲雄さん
(公財)埼玉県産業振興公社
DX 推進支援グループリーダー
同社は、モノづくりの最終工程に位置づけられる研削加工を行っています。F1 のエンジン部品や航空宇宙部品など、他社では加工が難しい高精度な部品に対応できる技術力が強みです。内田社長はフラットな組織を目指しており、社内は明るい雰囲気で風通しがよく、全社員が主役となり、力を合わせて同じ夢を追いかけています。このことに共感する就活生も多く、ここ数年は採用に困ることなく優秀な社員が入社しています。今後もニッチトップ企業としてますますの発展を期待しています。

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