物語をもつ着ぐるみが、海を渡る

着ぐるみキャラクターを愛する人たちが親しみを込めて「産院」と呼ぶ工場がある。着ぐるみ製作会社のKIGURUMI.BIZ㈱。ここで生まれる着ぐるみは毎年150~180体、修理が必要になればこの産院に里帰りする。

「いったん工場から出荷された着ぐるみはその瞬間からいのちを宿し、物語をもつキャラクターとして歩きはじめる」と加納ひろみ代表取締役(65歳)。アバターとは違う人間味のある着ぐるみ文化を育てたいというのが加納代表の想いだ。この想いが実り、同社の着ぐるみは海外でも人気で、海を渡った着ぐるみは17カ国100体ほどに。数年前には米国支社を置き、つづいてタイ・バンコクの企業と技術提携したという。

同社スタッフはほぼ女性、デザインから縫製、仕上げ、検品までチーム編成による分業制だ。難しいのは「着ぐるみとしての使命を果たせるよう、平面イラストを3D化すること」だと加納代表。そして、工場では朝夕、針の数やカッター刃の状態をチェックするなど道具を管理し、安全対策も徹底している。けが防止や危険物混入を排除するためだ。

 

関係者やファンが愛情を込めて「産院」と呼ぶ製作工場
タイ・バンコクの企業と結んだ技術提携を記念した現地でのセレモニー

働く空間を見守る「フィギュコット」誕生

着ぐるみ以外にも紙や木、布を使った造形物をつくっているが、最近はフィギュア+マスコットの「フィギュコット」といった新商品も。フィギュコットはロビーや受付などオフィスの片隅に置く、高さ1m前後のちょっぴり小さなキャラクター人形。ウレタンや発泡スチロールなど柔軟材を削って生地を貼る製法で作られ、得意領域だが、「どこでも連れて行ける子どものような存在だ」と加納代表。

だが、同社にも悩みが。「マーケットが広がり製作の依頼が増え、職人不足で希望の納期に間に合わない状況がつづいた」という。そこで縫製技術の継承だけでなく、工法マニュアルの整備や型紙のデジタル化に取り組んでいる。そして、子育てが忙しい時期にも女性が能力を発揮し、継続的に働ける環境づくりに力を注いでいる。

2023年には「日本の着ぐるみ文化を未来につなぎたい」と(一社)着ぐるみ協会を設立。業界全体の向上や海外との交流にも積極的に取り組んでいるという。着ぐるみづくりだけでない、文化にこだわる「こと」づくり企業といった感じがしてユニークだ。

「縫製などの職人にも光を当てて応援してほしい」と話す加納代表
着ぐるみキャラクターとして工場で生まれた〝子ども〟 たち

馬場拓さん
(公財)宮崎県産業振興機構企業成長促進室
プロジェクトマネージャー

同社は着ぐるみ製造を通じて、地域女性が活躍できる職場づくりを実現している点が大きな強みです。熟練職人の技術に加え、女性ならではの繊細な縫製力が品質を支え、その承継体制も整備されています。職人技とデジタル技術の融合、タイとの国際協働による柔軟な生産体制により、高品質な製品提供を継続。女性中心の職場環境と技術継承の仕組みは、国内製造業のモデルとなるポテンシャルを持った企業です。