木の伐採・製材からの一貫体制だからこそ成し得る、長く愛される木工品

㈱モック犬橋は、山梨県道志村の山中にある木工品製造・販売会社だ。都心や横浜から2時間とかからない距離にありながら森林資源に恵まれ、それを生かした事業を長年、展開してきた。

創業は1971年、代表取締役の佐藤智秀氏(66歳)の父が佐藤木工所として設立したのがはじまり。「当初は製材や木工品のパーツ製造を行っていたが、1980年に『犬橋工芸』として、父とふたりで製材から完成品の製作までを手掛ける事業所として再出発した」という。「犬橋」は、その当時の地名から命名したものだそうだ。

その後、1988年に㈱モック犬橋とし、佐藤氏が代表取締役に就任して現在の形になった。「山梨、神奈川、東京から原木を買いつけて角材に製材し、2カ月から2年ほど天日乾燥する。そして各部品に加工した後、塗装を施して組み立て、県内外に納品・販売するというのが一連の流れで、製材から完成品までの一貫体制にこだわっている」という。

木工品の製造は一般的に分業で行うことが多いが、一貫体制で行うことによりすべての工程に目を配ることができ、製品の質を高めることができるのが利点だそうだ。「たとえば、乾燥がいい加減だとひび割れやゆがみが生じるし、塗装も素材の良さが伝わるよう細心の注意を払って行う必要がある。日々の使用に耐え得る、長く愛される商品を作るには、手を抜ける工程はひとつもない」と佐藤氏。

こうした一貫体制にこだわって作られた商品は、無垢杉材の積み木やドミノ、さまざまな素材の干支や山梨県における「アマビエ」的存在の「ヨゲンノトリ」などをあしらった置き物、「ヨージ」「ヨーコ」の名がついたユニークな楊枝入れ、人形を乗せられる玩具の車などさまざまで、小さなものでは耳かきやキーホルダーなどもある。こうした一般向け商品のほか、主に企業や自治体からの依頼でオーダーメイドの商品も手掛けている。

「ともさん」の愛称で親しまれる佐藤智秀社長
シルクハットの「ヨージ」と丸い帽子の 「ヨーコ」。帽子を持ち上げると楊枝がフワッと出てくる

SDGs普及に寄与、国産木材の活用で森林循環も後押し

2019年には、水源林の保全をすすめる一般社団法人からの依頼で、国連が掲げる持続可能な開発目標であるSDGsのロゴマークをかたどったピンバッジを製作した。「SDGsの普及に寄与しようと、杉の間伐材や端材を積極的に活用した直径24~25mmほどのバッジで、山梨日日新聞やテレビのクイズ番組でも取り上げられた」と佐藤氏。バッジは横浜市や富士河口湖町、山梨県民信用組合などに納品したほか、高速道路のサービスエリアなどでも販売している。

「木材の利用が広がって森林整備がすすめば、豊かな土壌が育ち、雨水を蓄え、多様な生き物を守る健全な森林がつくられ、温室効果ガス削減にも役立つ。微力ながら森林循環の一助になればとの思いで、国産材の使用にこだわっている」と佐藤氏。現在は木工体験などができる新しいカフェのオープンも計画中とのことで、さらなる躍進が期待できそうだ。

間伐材などでつくった SDGs のピンバッジ。テレビ出演時は見栄えがするよう直径 40㍉㍍のものを特別に製作した
山奥にある㈱モック犬橋の工房

坂本秀二さん
山梨県よろず支援拠点

同社に初めて伺ったとき、木の伐採から製材、乾燥、加工、塗装、組立、梱包のすべてを自社で行っていることに驚かされました。ただ、商品の主な販売方法は道の駅などにかぎられており、「これだけ苦労してすべてを手づくりしていることをもっと伝えるべきだ‼」とも感じました。これからも良いものを作りつづけるとともに、「作るのが3割、売るのが7割」の力配分を基本として頑張ってほしいと願っています。