かつて、クジラ漁が盛んで海路、陸路の要所だった東彼杵(ひがしそのぎ)町。人口はピーク時に1万3000人を超えていたが、少子高齢化の波を受けて現在は7000人台まで減少している。そんな町に全国から人を集め、ふたたびにぎわいを取り戻そうとしているのが、(一社)東彼杵ひとこともの公社だ。

同社立ち上げのキーマンは代表理事の森一峻氏(37歳)。高校卒業後、県外の企業に就職したが、「帰省するたびに町の衰退を感じ、自分のような若い世代が何とかしなければならない」と考えはじめたという。そして23歳のとき、酒屋やコンビニなどを営んでいた家業を継ぐために帰省。さらにUターンやIターンを増やすことを目的に地元有志らと「NAGASAKI PROJECT」という任意団体を立ち上げ、町の再生に踏み出したという。

活動のコンセプトは「東彼杵で暮らしたい」と思ってもらえるような〝自然派生型〟のまちづくり。人の交流を生むために、町に店舗を増やすことを目標に掲げたという。その一環として、まずは使われなくなった米倉庫を店舗に改修、SNSを駆使して出店者募集を募ったところ、「カフェを出店したい」「アンティーク家具を販売したい」という人がチラホラとあらわれたという。これで「地方で暮らし、まちづくりに貢献したいという人が想像以上にいる」ことを実感した森氏は、出店者をエリアに広げる取り組みにも注力。地元の千錦駅にはカレー店が入ったそうだ。

観光振興やローカルコーディネーターづくりにも 力を入れる森氏
米倉庫を改修した「Sorriso riso」ではカフェを楽しめる

森氏は2017年、こうした活動の幅をさらに広げるために東彼杵ひとこともの公社を設立したが、当初は各店舗の集客にかなり苦戦したという。なぜなら「SNSだけではプロジェクトの内容を伝えきれず、一部の興味のある人からしか反応を得られていなかった」からだ。こうして情報を整理し、見える化することの大切さを知った森氏は、20年からウェブサイト「くじらの髭」をスタート。町内の産業や特産品、イベントなどを森氏がみずから取材し、記事と写真を投稿するとともに、地元出身の編集者らとサイト内の情報を拡大していったという。すると、ミシュラン星つきの店で修行を積んだ料理人がフレンチレストランを出店した、などのディープな話題がヒットしてアクセス数が急増。まさに東彼杵の「人・コト・モノ」に魅せられて観光客が多く訪れるようになり、月収100万円を売り上げる店も出てきたという。

また、それにともない移住や帰省して店舗を構えたいという人も増加、もともと町内にある店舗は数軒ほどだったが、今では30軒以上になっているという。この勢いで「より地域に密着した情報発信に力を入れていきたい」と森氏。最近は法人理事の「さいとう宿場」が中心となって「くじらの旅チャンネル」というあらたなウェブサイトを立ち上げ、地元の人が東彼杵のオススメスポットを紹介するという取り組みも行っている。はやくも情報発信を活用したまちづくりが、あらたなモデルケースとなっている。

ウェブサイト「くじらの髭」には ディープな情報が満載