〝うどん生産量日本一〞の香川県ならではの「うどんまるごと循環プロジェクト」。約十年にわたって産官学連携で地域におけるユニークな資源循環を実践してきたプロジェクトのキーマンたちに話を聞き、そのノウハウや知見を探った。

上写真/総務省愛媛行政監視行政相談センター課長で、うどんまるごと循環コンソーシアム事務局長を務める久米紳介氏(左)、ちよだ製作所技術開発営業担当の尾嵜哲夫氏。同社バイオガスプラントのタンクの前にて

うどん廃棄物からあらたな
エネルギーを生み出す!? 

香川県はうどんの一大生産地・消費地である一方、規格外品や切れ端といった「廃棄うどん」の量も多い。聞くところによると、約10年前にはひとつのうどん工場から1日4㌧、年間1500㌧もの廃棄品が出るケースもあったという。地元のうどん工場から「これを何とか活用できないか」と相談を受けた㈱ちよだ製作所(香川県高松市)は、エタノール発酵やメタン発酵によって廃棄うどんからあらたなエネルギーをつくりだすことを提案。この取り組みに注目したのが、当時、総務省四国行政評価支局から環境省高松事務所環境対策課に出向していた久米紳介氏(51歳)だった。
「東日本大震災による原子力発電所事故の影響で、再生可能エネルギーのニーズや人々の健康や環境に対する意識が高まるなか、『廃棄うどんのエネルギー化』を核としたプロジェクトでさまざまな地域課題を解決できるのではないかと直感した」という。
さっそく、久米氏はボランティアでちよだ製作所やさぬき麺業のほか、自治体、地元のNPO などに呼びかけ、2012 年1月にうどんまるごと循環コンソーシアムを設立、その後、13年から事務局長を務めることに。そして廃棄うどんから再生可能エネルギーを生み出すとともに、その残りカスを肥料化して小麦を栽培することで、地域における食の循環の確立を目指す「うどんまるごと循環プロジェクト」が始動した。

ちよだ製作所に運ばれてきた廃棄うどん
左から2瓶はちよだ製作所に運搬されてきたうどん原料(廃棄うどん)、その隣が破砕原料、生ごみ原料、メタン発酵液、消化液、一番右端が消化液からつくった液体肥料
ちよだ製作所では産業用機械や建設機械の製造・販売業のかたわら、以前から太陽光発電自動追尾システムやプラスチック再利用のための油化装置を設計・製造するなど、環境事業にも熱心に取り組んできた

「うどん発電」の仕組みと
これまでの成果

では、このプロジェクトではどのような工程を経て廃棄うどんから再生可能エネルギーを生み出すのか。ちよだ製作所の技術開発営業担当、尾嵜哲夫氏(50歳)によれば、その仕組みは以下の通り。まず、さぬき麺業のうどん工場で出る廃棄うどんを細かく破砕してメタン発酵プラントに投入、水分調整などをしながら発酵を待つと、メタンガスを中心としたバイオガスが生成される。このバイオガスを燃料としたガスエンジンを回すことで「うどん発電」が行われるのだ。プロジェクト開始の翌年の13年12月にはFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)を利用して四国電力に売電をスタート、これまでに年平均8万5000kwh を発電し、廃棄物処理と売電による収入は年平均800 万円。運用当初から21年末までに合計2523㌧の食品残渣を回収、バイオガス化し、環境省の試算を用いると807㌧―CO2 のGHG(温室効果ガス)排出削減に貢献したという。

エコツアーや環境教育にも
積極的に取り組む

そして、発電のみならず、バイオガスを生成した後に排出される大量の廃棄物「消化液」を液体肥料や固形肥料として活用するのも、このプロジェクトの重要なポイントだ。前出のプロジェクト事務局長の久米氏曰く、「地元農家の協力のもとでこの肥料を畑に撒いて小麦を栽培するだけでなく、それを収穫、製粉し、ふたたびうどんをつくって食べるところまで、一連の流れを多くの人たちに体験してもらうエコツアーも実施している」とのこと。さらには香川県環境政策課や香川県内の小中学校にも呼びかけて、同様の体験ができる授業も実施。その結果、子どもたちへの環境教育や食品廃棄物・食品ロスの削減に向けた普及啓発につながっているという。

ちよだ製作所やさぬき麺業が主体となって実施している「うどんまるごとエコツアー」のうどん手打ち体験
廃棄うどんからつくった肥料で育てられた小麦の収穫体験

このように「うどん発電」はエネルギーの創出にはじまって、田畑の肥料づくりや食品ロスの低減、地域の環境教育などさまざまな取り組みを生み出してきた。今後の課題は、いかに多くのうどん工場やうどん店の賛同、協力を得るかだ、と久米氏。現状、メタン発酵プラントに投入している食品廃棄物は地元の食品加工工場などから持ち込まれるものが多く、廃棄うどんの提供に協力しているのはさぬき麺業1社のみ。「ちよだ製作所のプラントまで廃棄うどんを運搬する手間がかかるため、なかなか協力を得るのが難しい」という。そのため「うどんからうどんを作る」地域循環を確固たるものにするにはまだいたっていない。ただ、「近年では企業がSDGs に取り組む動きが広がっており、以前にも増してプロジェクトが注目を集めるようになっている」と久米氏。「いずれは食に携わるあらゆる企業にとって廃棄物のリサイクルを行うことが当たり前となるよう、粘り強くプロジェクトを継続していきたい」と意気込んでいる。このSDGs な活動事例が四国各地に、そして全国に広がっていくことを期待したい。