切削工具メーカーの協和精工㈱は、精密加工用の小径工具製造を得意とし、創業当時は腕時計のリュウズ(時刻修正を行う突起)の穴を開ける「段付きドリル」の品質の高さで業界に名を広げていた。その後、蓄積された技術を生かして時計業界に参入、2005年には高級腕時計ブランドを立ち上げた。そのブランド名は「MINASE」といい、高級腕時計の本場、スイスにも出荷されるなど、世界が認めた逸品となった。
海外輸出にも積極的な 鈴木豪社長
                

さっそく、その開発ストーリーを紹介したい。集団就職で上京した現最高顧問相談役の鈴木耕一氏(79歳)が同社を立ち上げたのは20歳のときのこと。当初はドリルを中心とした工具の製造に明け暮れていたという。そんなある日、腕時計メーカーから「リュウズの穴を開けるドリルがすぐに折れてしまう」と相談を受けたことを機に前出の「段付きドリル」の開発に着手。焼き入れ加工などの熱処理を工夫し、3年ほどかけて丈夫で高品質なドリルを完成させたという。評判はすぐに広まり、多いときで月8000本程度の注文が入ったという。この「段付きドリル」は当時、国内に約20社あった時計ケースメーカーすべてで採用されたそうだ。

その後、同社は腕時計のケース(ムーブを納める外装)づくりも手掛けることに。こちらも高い技術を生かして販路を開拓していったが、1990年代のバブル崩壊後から国内メーカーのほとんどが部品の仕入れを海外にシフト。耕一氏は「このまま下請けだけをつづけていては生き残ることはできない。自分たちの商品を売っていかなければ」と、時計完成品を受託製造するOEMメーカーとなり、その後、自社ブランドの腕時計づくりにも挑戦。そして、現社長の鈴木豪氏(51歳)が中心となって冒頭のMINASEを立ち上げたという。

「段付きドリル」と時計の ケース。工具メーカーのプ ライドが詰まっている

MINASEの最大の特徴は、歪みのない美しい鏡面とエッジの効いた立体的なフォルムだ。「ケースの仕上げの前に施す下処理『ザラツ研磨』の技術を活用し、この独特のフォルムをつくることに成功した」と豪氏は話す。このオンリーワンのデザインと品質は着実に評価されるようになり、まずは国内でジワジワと存在感を発揮。はじめは受注生産だったが、メディアで取り上げられたこともあり、今では年間700本、百貨店35店舗で販売されるなど、時計事業の売り上げの3割を占めるまでに成長したという。それだけではなく、17年からはスイスのパートナー会社と組み、MINASEの輸出も展開。今や欧米を中心に広く出荷され、世界が認める高級ブランドとして認知されるまでになっている。

これまでの成長の軌跡について、豪氏は「すべての事業に全力をつくしてきた成果だ」と話す。その背景にあるのはやはりモノづくりへの強いこだわり、今後は「オーダーメイドの腕時計にも挑戦していきたい」というから、日本の技術の誇りがさらに世界に広まっていくことを期待したい。