1952年に牛乳の製造販売をはじめた「西越酪農組合」は、85年から65℃で30 分間殺菌し、牛乳本来の旨味やコクを引き立たせる「低温殺菌牛乳」の製造に挑戦している。2017年に㈱良寛に社名変更した後も、よりおいしい牛乳づくりにこだわっている。

そのこだわりについて、諸橋且委社長(72歳)は「少子高齢化や飲料市場の多様化で市場が先細りしているから」だと話す。事実、同社が製造する牛乳はほとんどが通常の高温殺菌牛乳(125℃で2秒殺菌)だが、「同じ商品だけでは勝負できない」と長年にわたって低温殺菌牛乳にも取り組みつづけているそうだ。しかし、この低温殺菌牛乳には日持ちなどの点で弱みが。高温殺菌牛乳の賞味期限が7日程度なのに対し、低温殺菌牛乳は5日程度と短いほか、値段も1割ほど高く、販売先に敬遠されやすいという。そのため、せっかくつくったものの「現在にいたるまで販路の開拓が大きな課題になっていた」と諸橋社長は話す。

現役の酪農家でもある諸橋社長(左)と 社長室長の新山田氏。 ふたりの信頼関係は厚い

そこで20年に助っ人として迎えたのが、百貨店のバイヤー経験を持つ社長室長の新山田仁氏(62歳)だった。新山田氏は商品企画や営業のルートづくりの経験から、低温殺菌牛乳を使ったソフトクリーム製造を提案。しかもそれは一般的なミルク味ではなく、「苦いコーヒー味」だったという。諸橋社長は「はじめ聞いたときは、本当にこれで成功するのか不安だった。だが、『差別化した商品のほうが消費者の印象に残りやすい』というマーケティングの基礎を学び、ナットクすることができた」と話す。

その後、同社は21年2月からこの商品の開発を開始。県内のコーヒー店の協力のもと、苦いコーヒー味を目指したが、「何度やってもカフェオレ味にしかならなかった」という。実際、100種類以上の試作を繰り返したが、残念ながら発売を予定していた4月はアッという間にすぎてしまったそうだ。だが、それでもあきらめずに試作をつづけたところ、最終的にコーヒーを5倍に濃縮することで理想の味にグッと近づいたという。「徹底的にコーヒーを濃くすることで、苦いコーヒー好きにはたまらない、オンリーワンな商品をつくることができた」と諸橋社長は胸を張る。

良寛コーヒーソフトクリームに使われ るコーヒーは、釜で5時間かけて煮出 している
                                       

こうして予定より2カ月遅れの6月に「良寛コーヒーソフトクリーム」は完成し、道の駅などでの販売もスタート。はじめは個性が強すぎるうえ、「苦くて食べられない」という人もいたそうだが、地道に販売していくうちに「苦いけどおいしい」というコアなファンがつきはじめ、その情報が口コミで拡散。客足は日に日に増えていき、気づけば30分待ちの行列ができるヒット商品に。これに比例して同時期に製造・販売したミルク味のソフトクリーム、お土産用のアイスクリームも人気になり、ソフトは月1万個、アイスは月5000個を売り上げるようになったそうだ。低温殺菌牛乳のあらたな可能性を引き出すことに成功した諸橋社長は、最高の右腕とともに「良寛牛乳を全国ブランドにしていきたい」と意気込んでいる。