さまざまな精密機器の筐体やカバー、フレームなどの板金加工を手掛ける㈱佐藤電機製作所。そのときどきの最新の加工設備を揃えるとともに、ここ十数年は業務改革や組織改革を実践、時代の荒波に負けないモノづくり企業へと生まれ変わった。佐藤喜行会長と薫宏社長にこれまでの歩みと展望を聞いた。
上写真/2代目の佐藤喜行会長(左)と3代目の薫宏社長

現在でこそ電子機器や医療機器、半導体製造関連機器、インフラ関連機器、航空機部品などと、幅広い仕事を受注している㈱佐藤電機製作所だが、「20年以上前は大手電機メーカー1社に7割以上依存していた」と2代目の佐藤喜行会長。2008年のリーマンショック時にはそのメーカーからの仕事が激減し、それまで約10億円あった売り上げが半減。窮余の策として、同社はあらたな分野の顧客開拓に乗り出した。まずアプローチしたのは医療機器業界。半世紀以上かけて培ってきた人脈を生かし、アロカ㈱(現・㈱日立製作所 ヘルスケア事業本部)から血液などの検体分析装置の筐体製造を受注することができたそうだ。これに勢いを得て半導体製造関連機器、航空機部品など、つぎつぎとあらたな顧客を開拓、おかげで現在ではこれらの新規事業で7〜8割の売り上げを確保できるまでになった。
同社がこのように一社依存体質から脱却できたのは、何より精密板金加工業者として高度な技術力と対応力のポテンシャルを備えていたからだ。「初代社長の佐藤義忠はつねに業界に先んじて最新設備を導入し、技術の研鑽に励んできた」と喜行会長。1977年には「当時の年商とほぼ同額」のNCターレットパンチプレスを社運をかけて購入、「もともと手加工だった金属板の切断から穴開けまでをすべて自動化できるようになったことで作業効率が何十倍にもハネ上がり、同業他社を大きく引きはなすことができた」という。そして「先代から引き継いだこの進取の精神は新分野開拓にあたっても存分に発揮された」と喜行会長は胸を張る。たとえば従来、同社では板金部品同士を接合する際にはリベット方式を得意としていたが、医療機器では溶接がほとんどであるうえ、熱の影響を受けやすく溶接の難度が高いアルミ製を加工しなければならない。そこで「すぐさま最新の『ファイバーレーザーロボット溶接機』を導入、と同時に手作業による溶接技術の向上も急ピッチですすめることで顧客ニーズに対応した」そうだ。

ここ数年、同社の主力となっている医療機器の筐体
2018年、あらたに導入したファイバーレーザーロボット溶接機

ただ、新分野開拓にはこうした技術力だけでなく、業務改革や組織改革も欠かせなかった。「従来の大量生産から多品種少量生産へと生産方式をガラリと変えるのがとにかく大変だった」と話すのは、その陣頭指揮を執った3代目の佐藤薫宏社長だ。聞けば、以前は図面をすべて紙に出力し、各工程の進捗はすべて現場の担当者が直に確認していたが、それだと多品種の生産を効率よく確実にすすめることはできない。そこで「生産管理システムを刷新し、現場の全員にiPadを支給して図面を電子化した」という。当初は従来のやり方に慣れた従業員から反発の声が上がり、システムが適切に利用されず効果は限定的だったが、外部コンサルタントの力も借りながら粘り強く声がけをつづけ、徐々にあらたな生産管理体制が浸透していったそうだ。
と同時に、薫宏社長は従業員同士のコミュニケーションの活発化や従業員教育にも注力。「大量生産時代は完全分業で、各工程を担当する従業員間で横のつながりがなくても仕事はスムーズにすすんだし、自分の担当工程のことさえわかっていれば事足りたが、多品種生産では進捗状況しだいで負荷がかかる工程が変わるため、一人ひとりが多能工として手分けしなければならない」からだ。そこで社員旅行や飲み会といった交流の機会のほか、現場の従業員同士の小集団でのミーティング、研修・勉強会や情報共有の場などを増やしていったという。

従業員全員がiPadを持ち、生産管理システムを活用
現場の小集団でのミーティングの様子。LINE WORKSで のビジネスチャットも活用し、効率的に業務をすすめているという

こうした努力のかいあって、現在、同社の主力生産拠点である山梨工場では「PCやモバイル端末での生産状況の進捗管理は当たり前となり、従業員一人ひとりが臨機応変にさまざまな工程を担当する体制が整っている」そうだ。
ここ数年、コロナ禍や国際情勢の不安定化でサプライチェーンが混乱し、部品不足や在庫のダブつきが常態化、さらに原材料費の高騰も重なるなど、製造業者にとって厳しい状況がつづいている。だが、そうしたなかにあって薫宏社長は「これからも新規分野への開拓をつづけていきたい」と力強い。また、今後は部品製造のみならず、組み立てや配線といったところまで一貫して手掛けられる体制づくりもすすめていくという。長年かけて培った高度な技術力とあらたに確立した生産管理体制を武器として、ぜひこの荒波を乗り越えていってほしいものだ。

「ヒトと機械とITの融合」をコン セプトとした佐藤電機製作所のロ ゴマーク
約60人の従業員が働く山梨工場