食欲の秋がやってきた。夏にタップリ栄養を溜め込んだ果実や稲穂がたわわに実り、数多くの山海の幸が旬を迎えるこの時期、豊かな食を求めて島旅に出かけるなら断然、佐渡島(新潟県佐渡市)がオススメだ。何しろこの島では、沖を流れる対馬暖流の影響で寒暖両系の植物分布がみられ、幅広い種類の野菜と果物などがよく育つほか、離島にはめずらしく平野部が広いので稲作や酒造りも盛ん、近海で獲れる魚種も豊富とあって、〝食材の宝庫〟と呼ばれるほどの多様性に満ちているのである。というわけで『島へ。』2022年10月号では、佐渡島を大特集した。ここではその冒頭、料理人歴40余年、佐渡島在住約20年の尾﨑邦彰シェフ(56歳)の取材記事を抜粋掲載‼ やはり佐渡島の食材のことは、佐渡島の料理人に聞くのが一番だ。

本誌では佐渡の食と芸能をたっぷり取り上げているので、ご興味がおありの方はぜひ書店やネット通販でお買い求めください‼

尾﨑邦彰シェフ

地元大阪の鮨割烹で修行した後、フランスやオーストラリアで幅広く料理の腕を磨いたという尾﨑さん。2003年に佐渡島に移住。当初は両津地区潟端で古民家フレンチを営んでいたが、15年よりGuest Villa on the 美一1階に移転、清助Next Doorとして再スタートした。

料理人が惚れ込む
食材の宝庫・佐渡

「若い頃は、仕事で使う食材といえば市場や仕入れ業者から調達するものと思い込んでいた」という尾﨑邦彰さん。だが、佐渡島に移住して価値観が一変。「野にも山にも、そして川や海にもたくさんの食材が転がっている。それらを自分の手と足をつかって取りに行けばよいのだと気づいた」そうだ。以来、地元の野山や海や畑が尾﨑さんの〝仕入れ先〟に。仕入れ先といえば、マルヨシ鮮魚店(佐渡市河原田本町)と知り合ったのも何かの縁だった、とも。この魚屋は魚の取り扱いがたしかで「とくに鮮度保持に欠かせない神経締めの腕は島随一」と太鼓判を押す。こうした信頼できる魚屋から仕入れ、ときにみずから釣り上げる魚種は実に豊富で「ここ数年、海水温の上昇や海流の変化で季節ごとに獲れる魚介の顔ぶれが変わってはいるが、日々手に入るものに合わせて料理するスタイルなので不便も不満もまったくない」そうだ。

マルヨシ鮮魚店から仕入れたカサゴなど
尾﨑さんがみずから佐渡の山で採ったキノコ

山の幸については、ほぼ自分で森に入って必要な食材を調達しており、「春先はとにかく山菜が豊富、4月頃から11月頃までは季節ごとにさまざまな種類のキノコが採れるので、冬期以外はまさに食材の宝庫」だという。

では農産物はどうか。聞けば、約年前の移住当時には「鍋物やカレーなどで使うスタンダードな野菜が大半だった」が、ここ年ほどは地元の若手農家や新規就農したU・Iターン者が西洋野菜やマイナーな品種の栽培にも取り組んでいるので「私たち料理人でも聞いたことのない野菜にお目にかかることもある」とか。

もともと島内各地で、リンゴやミカン、イチジク、カキなど四季折々、多種多様なものが栽培されていた果物についても、レモンやパッションフルーツなどあらたな産品が加わっているそうだ。「佐渡島の恵まれた自然環境や気候のポテンシャルをもっと生かそうという農家が増えており、料理人としてはありがたいかぎりだ」と尾﨑さん。その結果、今や尾﨑さんが営む清助NextDoorで取り扱う食材の9割以上が佐渡産に。「地産地消にこだわっているわけではないが、より良いものを料理人目線で選んだら自然とこうなった」という。

さらに、尾﨑さんは「足りないものは自分たちでつくればいい」と島内のほかの料理人たちに呼びかけて「うまみラボ」を結成、さまざまな加工品や調味料などの開発にも取り組んできた。目下、十割そばと和食の店「蕎麦茂左衛門」や島の人気パン屋「T&M Bread Delivery SADO Island」、ビストロ「La Barque de Dionysos」などと協力し、島産の小麦、大豆、塩、水でオリジナルの醤油をつくっているところだそうだ。奥深い佐渡食材の世界、その可能性はまさに無限に広がっている。

というわけで、尾﨑さんに実際に佐渡食材たっぷりの料理をつくってもらった
佐渡産の小麦を自家製粉した小麦粉のパスタ
佐渡産フルーツも贅沢に使用
料理は↓の3品。いずれも長年の経験と感性が注ぎ込まれた逸品、佐渡の多様性を凝縮したような素晴らしい味わいだった
(4種のキノコとタマネギのパスタ) 山で採ってきたアンズタケ(ジロール)、ヤマドリタケモドキ(ポルチーニ)、アカヤマドリ、オニイグチと紫タマネギのパスタ。滋味深い味わいのキノコはまさに森の恵みといった感じ。それぞれ食感や歯ごたえが違うのも楽しい。パスタはもちろん佐渡産小麦を使った自家製小麦粉の手打ち、モチモチで美味
(カサゴのうろこ揚げ 白ワインソースとハーブ添え) この日、用意した島近海の鮮魚のなかから、カサゴをうろこ揚げに。白ワインのベースにカサゴのアラ出汁を合わせ、手作りの塩を振ったシンプルなソースに、コブミカンやレモングラスといったアジアンテイストのハーブを加える。さわやかで香高い一皿。周囲に散らされた各種ハーブはお好みで
(フルーツたっぷりの クレームブリュレ) 旬のフルーツをこれでもかと使ったクレームブリュレ。そのラインアップはイチジク、ネクタリン、リンゴ、スモモ、マスカット、ロンドボーデックス(黒イチジクの一種)、ヤマボウシ。さらにフルーツジュレ、自家製ラズベリーなどでつくったシャーベットも添えられ、まさに果樹王国・佐渡を象徴するような堂々たるデザートだ

『島へ。』10月号では、佐渡島の食と芸能の魅力をたっぷり紹介しています。ぜひご一読ください‼
https://www.fujisan.co.jp/product/1281680707/new/