Trim㈱の調査によると、全国の授乳室の数はおよそ3万カ所あるが、年間の出生数は80万人台であるため、赤ちゃん100人当たりに対する授乳室の割合は4%にも満たず、圧倒的に授乳室が足りていない現状にあるという。この課題を解決しようと、同社は畳1畳分の設置型ベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」を開発、はやくも販路開拓に成功している。

では、いかにしてこのサービスは生まれたのか。原点は長谷川裕介社長( 38歳)が携わった授乳室検索アプリの運営にある。聞けば、長谷川社長は広告代理店に勤務していた28歳のときに母親をがんで亡くし、「多忙な毎日で何も恩返しができなかった。それを機に仕事に対する考え方が変わった」という。その後「より人の役に立つ仕事がしたい」と医療系ベンチャー企業に転職。そこで新規事業の責任者として授乳室のある場所を地図検索できるアプリの運営を手掛けることに。はじめは自分たちで場所を探して投稿していたが、アプリを利用する母親からつぎからつぎへと情報が集まり、会員数がうなぎ上りに増えていったという。しかし、会社の方針でそのアプリは廃止されることに。だが、長谷川社長は「利用者のお母さんたちがつないでくれた善意のバトンをここで止めるわけにはいかない。世のお母さんの役に立つことが、自分の母親への恩返しにつながるのではないか」と、思い切ってそのアプリを会社から買い取り、Trimを立ち上げたという。

「mamaro は個室なので男性も利用しやすい」と話す 長谷川社長。ジェンダー平等にも 一役買っている
月額4 万9 8 0 0 円~でレン タルすることもできる mamaro

その後、アプリ運営は順調に推移し、会員数も3万人に達するまでに増加したが、肝心の授乳室の登録数はいっこうに増えなかった。そこで、同社がその状況を分析してみると「一般的に授乳室は商業施設に設置されることが多く、利益にならないこの種のスペースをつくりたがらない」という理由がわかったという。ところが、ある母親から「電話ボックスのような授乳室がほしい」という相談が。これにピンときた長谷川社長はみずから設計ソフトを使ってベビールームの絵を描き上げ、さっそくそれをもとに前出のママロの開発に着手。できあがったのは畳1畳分で、これならユーザーニーズにピッタリ、「置くだけでOK」「簡単に移動できる」といった自信作に。

そんな折、ママロを後押しする情報が。アプリ上の声から「3人に1人の母親は施設に授乳室がないと再訪しなくなるため、商業施設は売上機会を損失する」といったデータを見つけ出したのだ。それからは積極的に商業施設に「デッドスペースに置かせてほしい」とアプローチ。するとビックリするほどの注文が。それ以降は自治体からも声がかかるようになり、運動公園や役所にも設置したいといった注文も。今では全国各地に約420台を展開するまでになっている。「5年以内に3000台を設置することが目標」と話す長谷川社長は「これからもお母さんの困りごとを解決していきたい」と張り切っている。