(上写真)「ないものはつくる」というモノづくり精神も持ち合わせた鈴木社長

コインランドリーには店舗型の「アウトドア」と寮やホテルなどに設置する「インドア」の種類があるが、1979年創業のファミリーレンタリース㈱は後者の国内最大手として成長をつづけている。昭和50年代までは銭湯などの公衆浴場で利用されるのが一般的だったコインランドリーは、今でこそ街のあちこちで見かけるようになった。同社の成長はまさにコインランドリーの歴史そのもの。その成長の秘訣について、洗濯機をこよなく愛する鈴木國夫社長(67歳)に聞いた。

コインランドリーは1930年頃にイギリスで発祥したといわれ、55年にアメリカでコイン式全自動洗濯機が開発されると、日本でも75年前後からチラホラとコインランドリーが出回りはじめ、自宅以外で洗濯をする文化が徐々に広がっていったという。その頃、「アウトドア」型の機械の販売などを行う会社に勤めていた鈴木社長は、ノレン分けしてもらって独立。しかし、当時のアウトドア型は「不衛生」という理由であまり評判がよくなかったそうだ。鈴木社長は「この先、このままではビジネスを拡大できない。それどころかこのままでは先細りしていくのではないか」とあらたな一手を模索。そうこうしているうちに、たまたま大手自動車メーカーから独身寮の洗濯機の話が持ち込まれた。これが大きな転機に。何でも、その会社は当時、主流だった二層式洗濯機(すすぎと脱水が分かれた洗濯機)を使っていたが、すすぎの際に水を出しっぱなしにして忘れる人が多く、寮の年間の水道代が1000万円もかかっていたという。この話を聞いた鈴木社長は「全自動の洗濯機のレンタルをはじめてみてはどうか」と着想。が、全自動型はアメリカなどでは一般化していたが、国産はまだ世に出ておらず、どのメーカーに聞いても開発の技術を持ち合わせていなかったそうだ。ならばと、鈴木社長はあちこちから部品を取り寄せ、みずからボタンひとつで全工程を指示できる仕組みを開発。それを洗濯機のトップシェアを誇っていた三洋電機に持ち込み、共同で全自動洗濯機を完成させたという。さっそく、その洗濯機を前述の自動車メーカーに納品したところ、「年間の水道代が200万円まで減少した」など喜びの声が寄せられたそうだ。

企業の社員寮に導入されている洗濯機と乾燥機。設置台数は綿密に計算されている
押しボタン式全自動洗濯機の後継機。ボタンひとつで全工程を行う画期的なシステムだ

その後も鈴木社長の挑戦はつづいた。「インドア」型のコインランドリーにビジネスを見出し、寮専用ガス乾燥機と全自動洗濯機を開発、学生寮や企業の独身寮に営業をかけたのだ。そこでPRしたのは、設置側がリスクを負わない独特のシステムだった。セールスポイントは「企業や学校は洗濯機の設置スペースを提供するだけで、機器導入費用や修理費用、水道光熱費まで当社が負担し、利用客の『コイン』のみで収入を得る」というもの。このキャッチコピーに多くの大企業や大学などが飛びつき「社員や学生の福利厚生に役立つ」ということで我先にと導入したそうだ。そして、鈴木社長は各寮の洗濯機の使用データを分析し「寮生30人に対し乾燥機1台、洗濯機2、3台」という適正な設置数をはじき出し、このデータを元に営業を重ねたという。おかげで事業は年々拡大し、今では寮やホテルなど3600カ所に万台以上の洗濯機を設置するまでになったそうだ。

昨今、鈴木社長の奮闘もあって、日本でコインランドリーの文化が根づき、業界の成長も勢いを増している。事実、「洗濯に時間をかけたくない」という共働き世帯が増加しており、年間売り上げ1000万円超えの「アウトドア」のコインランドリーも現れているという。こうした話が一人歩きし「手っ取り早く儲かるビジネス」として興味本位でランドリービジネスをはじめる人が増えているそうだ。当然、失敗する例も増えており、気軽にはじめたことで「かつてのような衛生面や機器の安全面の問題が出てくるのではないか」と心配しているという。

それと、もうひとつ頭の痛いことも。それは洗濯機や乾燥機の「コイン」の両替手数料のことで、100円玉の収入が年間億円あるため、手数料が800万円もかかるという。日銀のゼロ金利政策のため仕方ないが、それでも「コイン式洗濯機・乾燥機のリースは会社の魂。この方式を変えるわけにはいかない」と鈴木社長。その意志は強い。

子ども食堂の弁当を用意する関係者。鈴木社長はボランティア活動にも積極的だ