保護・強化のために街路樹などに巻かれている緑化資材、シュロ縄で全国トップシェアを誇る深海産業㈲。同社では今、地元の伝統製品であるシュロほうきやシダほうきの生産にも力を入れているという。

この失われつつある伝統を復活させるプロジェクトを立ち上げたのは、社長の息子である深海耕司専務(38歳)だ。「運送会社などの勤務を経て父が経営する会社に入って感じたのは、シュロ縄以外にも次世代に残すべき伝統があるのではないかということだった」と深海専務。とくに小学生の頃に見かけていたシュロ職人がいなくなっていたことに寂しさを感じていたという。
以来、深海専務は全国の伝統工芸の職人のもとを訪ね回り、ホウキのつくり方を見たり聞いたりしてきた。そして、昔ながらのシュロ製品を販売する京都の内藤商店の女将から「職人がいなくなってしまったシダほうきも復活させてほしい」と頼まれたことを機に、シュロほうきやシダほうきといった伝統的なホウキを制作することにしたという。
ある程度のノウハウは持っていたが、復活までの道のりは険しいものだった。まずは持ち帰ったホウキをバラして、重さを量ったりしながら仕組みを解明していくところからはじめたという。「社内に手先が器用な職人がいたので、彼を中心につくりはじめたが、それでも当初はホウキの毛が抜けやすいなどの問題があった。そこでさらに改良を重ね、簡単にしかも丈夫につくれる技術を編み出し、最終的には特許も取得した」と深海専務は振り返る。

作業に取り組む社員たち。全員がひとりの職人として腕を磨いている
「伝統品をなくしてはいけない」と訴える 深海専務

また、この技術を完成させるにあたっては「誰にでも継承できる」仕様にすることを心がけたという。モノをつくるだけでなく、その技術を後世に受けついでいきたいと思ったからだ。そして、現在は「『箒職人育成プロジェクト』を立ち上げ、この独自の製法を従業員などに伝承している」という。
同社のほうきづくりの歴史はまだ4年ほどだが、今ではシュロほうきやシダほうきのみならず、タワシといった小物もつくれるようになった。また、最近ではほうきの柄の部分に紀州黒江漆を施した高級志向の商品も地元の漆職人とタイアップして制作するなどしているという。ちなみに、この商品は意匠性が優れているほか、抗菌効果も高いということで、「東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2022」でグランプリを獲得している。
現在の販路は関東圏が中心だが、今後は「SNSなども駆使して世界にも広げていきたい」と話す深海専務。失われつつある伝統を復活しようというその試みは順調にすすんでいるようだ。