「スタミナ源たれ」(総合調味料)「玉子とうふ」「アップルパイ」「嶽きみ」(トウモロコシ)「青天の霹靂」(銘柄米)「リンゴ」など、青森県弘前市の「ご当地品」がカラー印刷された小型アクリル板のキーホルダー。そのひとつずつが容器の球体カプセルに収められ、カプセルトイ(ガチャガチャ)として販売されている。

これらのカプセルを発案し、製造したのは㈲アサヒ印刷(漆澤知昭社長)、今年8月、市内のスーパー「イトーヨーカドー弘前店」の店内で売り出したところ、初月だけで約3500個を売るヒット商品になっている。
開発のキッカケは新型コロナウイルスの感染拡大だった。それまでは名刺や商業封筒、事務系書類など紙への印刷を主力にしてきたが、「新しい生活様式」(2020年7月)が打ち出されて企業の名刺交換がオンライン化され、コロナ禍前は1カ月間で400件近くあった名刺印刷の受注が9件に激減。ペーパーレス化の逆風にコロナ禍が追い打ちをかけ、総売り上げも2~3割落ち込んだという。この苦境にあって、同社は新規事業を模索。以前から経済産業省のものづくり補助金を受けて「アクリル板などに印刷できるプリンターや厚さ10㍉㍍のアクリル板を滑らかに自在にカッティングできるレーザー加工機」といった最新鋭機器を揃えてきたが、その「脱・ペーパー印刷」の動きを加速させることにしたのだ。
そして入社5年目の若手、営業課主任の藤田直樹氏(25歳)があらたなニーズを求めて回ったところ、イトーヨーカドー弘前店店長から「ご当地品をアクリル板に印刷してはどうか」というアイデアが舞い込んだ。これに大きな可能性を感じた同社はさっそく商品開発に着手。ご当地品をアクリル板に印刷してカプセルトイとして販売する計画を本格化させた。

こちらはマスコット。これも県民の心に響く
「ご当地カプセルトイは製品に付加価値をつけて価格基準を高めた」と話す 漆澤社長

完成したキーホルダーは、縦横3㌢㍍で1個400円。そのほかにも、小型マスコットとして「青森県の形」「岩木山」「イトーヨーカドー弘前店」「弘前ねぷた」「弘前城」の5種を用意。これらのカプセルトイは地元住民や帰省者の間で話題になり、売り出して2カ月目にははやくも売り上げ好調に。単体の売上高では従来の「紙系印刷」を押しのけて部門別で上位に食い込み、漆澤社長は「経営のピンチを救った『救世主』」と目を細める。今後はさらにご当地品を増やすほか、イトーヨーカドーを中心に設置店を拡大したい考えだ。同スーパーの八戸店(青森県八戸市)、久喜店(埼玉県久喜市)との成約にこぎ着けるなど、上々の滑り出しを見せている。
ご当地カプセルトイは紙需要の先細りが避けられないなか、「脱ペーパーの申し子」として一躍、同社の「孝行息子」に躍り出た。漆澤社長は「事業の基盤はあくまで紙印刷」としながらも、新部門開拓を積極的にすすめている。「空気と水以外は何でも印刷する」方針で、同社はペーパーレス時代の波を乗り切ろうとしている。