(上写真)大電流に対応するEV用導電部品バスバーには独自の「曲げ」加工技術を生かした

世界的にガソリン車からEVへのシフトが急速にすすみ、その部品製造に求められる水準が高まっている。

たとえば次世代EVではモーターが高出力・大電流化し、ガソリン車で使われる銅線ではなく、大電流・大電圧に耐え得る部品が必要だ。そうしたニーズに応え、鳥取市内に本社を置く金属加工メーカー、㈱田中製作所が手掛ける電気自動車(EV)向け導電部品「バスバー」が注目を集めている。田中道男社長(64歳)によれば、バスバーは形状が複雑で、製造過程で傷がつきやすいなど精度が保ちにくい難点があるが、「当社では独自に曲げ加工の技術を改良、製品加工時の加工クズ発生を抑え、後工程の洗浄を不要とするなど、『高精度』と『傷の低減』を両立した」と胸を張る。高い部品精度がEV車メーカー自身の製造工程改善に寄与することから、高評価を受けているのだ。
同社では、ほかにも携帯電話や小型刃物、文具などに使われる数多くの精密加工製品を手掛け、それぞれの分野で独自のモノづくり技術の研究開発に取り組んでいる。「携帯電話の構造部品製造では世界シェア8㌫だった時期もあり、超薄型化や軽量化を実現するために培った技術をさまざまな分野に応用している」という。近年では、レシートやラベルなどをプリンターで出力するときのカットに用いられる小型刃物(カッター)の改良版「非粘着刃物」も生み出した。「独自のプレス加工で刃物製造時の研磨工程を不要とする技術により、製造コストを従来の半分以下に抑えることに成功し、表面を粘着物が付着しにくいディンプル加工にすることでラベル用紙の切断にも対応した」と田中社長。「物流倉庫などでも使われるPOS機脇のミニプリンター用に、いずれこの非粘着刃物が導入される」と話す。

成功にたどり着くまで可能性のあるアイデアはすべて試してみるという流儀を継いでいる田中社長
小型刃物(カッター刃)などの精密プレス加工部品の数々

現在、脱炭素社会の実現に向けて、計測機械におけるカーボンフットプリント(炭素の足跡)算出についての研究のほか、IoTを活用した原価低減・省エネ化の研究もすすめているという同社。その技術開発力を支えるメンバーのひとり、同社管理部の田中佑樹部長(35歳)は「難しい案件が持ち込まれたときでも〝お手上げ〟ではなく、技術開発にくらいつき、最後まで研究をやり遂げる。その姿勢が信頼を生み、相手との長い付き合いにつながる」と断言する。同社の次世代を見据えた多分野での研究開発の今後が楽しみだ。