写真/中国系企業による土地の買収が明らかになった屋那覇島(手前)。中央は伊是名島(写真提供:伊是名村)

沖縄県の無人島「屋那覇島」の一部の土地が中国系と見られる企業に買い取られ、国土保全、安全保障の両面から議論の的になっている。

中国系女性のSNSで発覚

無人島の屋那覇島は沖縄本島の北西にある伊是名島(伊是名村)の南約1.3㌔㍍に位置する。面積約0.74平方㌔㍍で東京ディズニーランドとほぼ同じ規模だ。砂丘が発達して形成され、標高は最高でも12㍍と低い。ライフラインはなく、人の住める環境は整っていない。海の透明度は高く、ダイビングや釣りの隠れた名所になっている。島へは伊是名島から渡し舟があり、グループで利用する人が多いという。
島の購入が明らかになったのは2月。中国人らしき女性が島内散策の動画をSNSに投稿したのがキッカケで、そこには映像とともに「3年前に購入した小さな島」という中国語のテロップが流れている。伊是名村が調べた結果、東京・港区に本社を置く中国ビジネスを手掛ける企業が2021年2月、国内企業から買収したことが判明した。購入面積は約0.38平方㌔㍍で島全体の半分に当たる。同社のホームページによると、設立は1968年で不動産投資とリゾート開発、中国ビジネスコンサルティングを主な事業とし、「屋那覇島を取得してリゾート開発計画を進めております」と記載されている。

問い合わせと苦情が相つぐ

中国系企業による買収を不安視する人は多く、村役場には島内外から100件を超す問い合わせの電話やメールが相つぎ、職員は対応に追われた。なかには「村が土地を売った」と誤解した人もいて、「苦情も非常に多かった」(総務課)という。村は全島の4分の1に当たる土地を所有しているが、今回の売買用地に村有地は含まれていない。奥間守村長は2月の村臨時議会で経緯を報告。村の介入を否定したうえで、同社のリゾート開発の意向について「村には何の打診もない。正式に計画の相談があれば、関係機関と協議し、村民の合意形成が取れるのかどうか確認する」と述べた。

問い 合わせと苦情が相ついだ伊是名村役場(写真提供:伊是名村)

国民的議論の必要性

屋那覇島には低木のソテツやガジュマルが群生し、野生のヤギやウサギが生息している。リゾート開発によって環境や生態系への影響を懸念する声が出ている。ある県民は「手つかずの自然が全域に残っている島は沖縄でも少ない。沖縄は観光立県を掲げてリゾート開発に邁進してきたが、環境と生態系に負荷をかける負の面があることを忘れてはならず、持続可能な国土づくりを真剣に議論する機会にしなければならない」と警告する。
安全保障の面で懸念する声も根強い。同島は中国が対米防衛線に位置づける第一列島線上にあり、別の県民は「中国は南西諸島の尖閣に連日、海警船で接近し、日本を揺さぶっている。こうした緊張感のなか、中国系企業が同じ南西諸島の屋那覇島の土地を取得し、穏やかではいられない。中国系企業による土地の買い占めに遭った北海道の二の舞にならないかどうか気が気でない」と不安を隠さない。アメリカ(テキサス州、フロリダ州、アーカンソー州など)でも外国人、とりわけ中国人の不動産購入を禁止する動きが出てきている。
だが、政府の松野博一官房長官は記者会見で、同島の売買が国境離島や米軍、自衛隊基地周辺の土地取引を規制する「土地利用規制法」の対象にならない見解を示し、合法的な売買であることを強調した。そうした政府見解にあって、伊是名村は推移を見守るとしている。地元住民にとっては降って湧いたような今回の買収話。国土保全と安全保障の観点から国民的な議論を促す課題を投げかけている。