岩手県の「わんこそば」、長野県の「戸隠そば」と並んで日本三大そばのひとつに数えられる島根県の「出雲そば」。その歴史は古く、江戸時代初期、出雲国松江藩の初代藩主・松平直政が信州松本藩から移ってきた際に、そば職人を連れてきたことに端を発するとされる。そんな「出雲そば」のトップメーカーが㈲本田商店だ。

5代目の本田繁社長は「徹底的な品質管理と独自の製造技術により、生そばでありながら半年以上の長期保存を可能にした。その特性を生かして、例年、そばの需要が跳ね上がる12月に向けて他社よりもいちはやく作り置きできるのが弊社の強み」と胸を張る。看板商品の「奥出雲生蕎麦」を筆頭とする生めんタイプは、本社工場で年間660万食を製造。食品スーパーを中心に全国の小売事業者に納入しており、「香り高い本格的な出雲そばをいつでも味わえる」とそば通からも好評だ。
コロナ禍による巣ごもり需要の恩恵を受けて、ここ数年の業績はとくに好調で、2023年3月期決算では、3年前と比べてほぼ倍増となる年商10億円に達する見込み。増えつづける需要に対応するために、同社はこれまで生産現場のカイゼンを繰り返してきた。たとえば、最近では工場内にセンサーを取りつけ、物と人の動きの〝見える化〟に成功。そのデータを分析して作業の効率化をはかり、ほとんど人員を増やすことなく従来と比べて1.3倍の生産量を実現した。「営業や生産管理の担当はもちろん、総務や製造現場の職人にいたるまで全社員が経営視点を持っているのが当社の特徴。時間効率やコストを意識しながら徹底してムダな作業を減らすことで収益の最大化をはかっている。みんなで頑張って利益を上げて、給料というカタチで還元したい」とのこと。

人気商品の「奥出雲生蕎麦」。賞味期限は製造から180日
「これからも小まめなカイゼンを繰り返していく」という 本田社長

好業績にもあぐらをかかず、さらなるシェア拡大を見据えてマーケティングに関しての取り組みを開始。その計画の第一歩として20年に本社を置く雲南市の神原工業団地内に約1万8000平米の用地を取得。昨年には生パスタ工場を完成させ、今年から倉庫、製粉工場、売店、生めん・乾麺工場と順次施設を建て、28年の完成を目指す。「施設の見学ツアーや製造体験イベントなど、幅広い年齢層の方に来てもらえるテーマパークのような生産拠点にしたい。人口減少によって食品メーカーの先行きは暗いという向きもあるが、まだまだできることはたくさんある。商品価値を高めて出雲そばの魅力を広く発信していきたい」と本田社長。出雲の新しい生産拠点ができる日を楽しみに待ちたい。