(上写真)平飼いの鶏舎。湿度や温度管理などストレスをなくす工夫を徹底している。年間約60万羽が出荷される

ブランド地鶏「みやざき地頭鶏」を中心に養鶏が盛んに行われている宮崎県にあって、今、人気急上昇中の品種がある。㈱英楽が手掛ける自社ブランドの県産鶏「夢創鶏」がそれだ。

生ハムや鶏つくね、鶏鍋セット、炭火焼などのパック商品をオンラインショップで全国展開、東京のテレビ通販番組でもイチ押し商品として脚光を浴び、宮崎の新しいブランド鶏としての存在感を強めている。
この夢創鶏が生まれ育つのは、太平洋に面した宮崎県北部の東臼杵郡門川町。池田英勝社長(50歳)によれば「ケージではなく、おが屑を敷いた床で平飼いすることで鶏のストレスをなくし、魚のアラや乳酸菌を混ぜ合わせたフィッシュサイレージを配合した飼料を与えている」という。そのおかげで「臭みがなく、歯応えもいい肉質に仕上がる。鶏肉本来のおいしさを味わってもらえるはずだ」と胸を張る。当然のことながら、この自信の裏には並々ならぬ地道な努力がある。毎日、鶏舎に足を運んで鶏の状態を見るのはもちろん、「温度や湿度をセンサーだけでなく、実際に鶏舎のなかに入ってみずから確認し、適切な換気率となるよう調整している」という。こうして日々、デリケートな鶏の飼育環境を守るために細心の注意を払っているのだ。また、鳥インフルエンザ感染防止のため、石灰散布や鶏舎消毒に年間300~400万円のコストをかけ、徹底した防疫を行っているそうだ。

「営業は難しく、価値をわかってもらえる説明力が必要」と話す池田社長
衛生管理の行き届いた工場で鶏つくねなどの商品を製造
夢創鶏のおいしさを知ってもらおうと従業員とともにさまざまなイベントに出展
                            

このように手間暇かけて育てられている高付加価値な夢創鶏。だが、残念ながら認知度が低いこともあって、まだ大きな収益を上げるにはいたっていない。現在、同社の収益の主軸はあくまでもB to Bだ。鶏だけにとらわれず国産の魚や野菜などを使ったさまざまな加工品のパック商品を大手外食チェーン、大手スーパーのデリカ向けにOEM(相手先ブランドによる生産)供給している。このOEM事業をさらに強化しようと、池田社長はコロナ禍真っ只中の2020年10月、約7500万円かけて地元の竹名工業団地のアイスクリーム冷凍・冷蔵倉庫跡を取得(延べ床面積約600平方㍍)。また、同敷地内に床面積1200平方㍍の「加工に特化した新工場を5年以内につくる」と意気込んでいる。
自社ブランド鶏の開発にチャレンジし、既存のOEM事業の強化にもまい進する池田社長だが、実は25年前、父の死去(享年59歳)で右も左もわからぬまま家業の養鶏場を継いだ過去を持つ。その10年後に英楽を起業、工場を建設して食品加工業をはじめたが、たった1年で立ち上げ時の従業員が去り、同時に1000万円近い取り込み詐欺に遭ってしまった。一時は借金や商品在庫の山を抱える状況まで追い込まれたが、それでも、ある人にいわれた「今はキツイだろうが創業できる人はほんのひと握り。創業できる幸せは経験できない」という言葉を胸に、何とか苦境を乗り越えたそうだ。努力のかいあってOEM事業で基盤を固めた今、「夢創鶏」の拡販に全力投球している。