(上写真)鮮魚などの鮮度を保ち、破れにくい包装紙「グリーンパーチロール」は同社のアイデアから生まれた

金沢の老舗紙問屋、浜田紙業㈱が、独自のネット戦略で顧客を北陸3県から全国へ広げている。気軽に相談できる「紙の専門店」としての地位を確立し、関係者からは「金沢に浜田紙業あり」といわれるまでに。

ティッシュ、トイレットペーパー、ペーパータオル、印刷用紙、包装紙と、同社が扱う商品群は実に多いが、それらを通販で一手に引き受けられる会社は意外に少ない。事実、「製紙メーカーからもネットで家庭紙から印刷・包装紙まで販売している会社はめずらしいといわれた」と話すのは同社の3代目で、ネット通販部門を指揮する浜田浩史専務(35歳)。「紙業界の流通はガチガチに硬直していて、地域に閉じこもっていては成長できない」という危機感から、このように幅広く紙製品も扱うようになったという。
浜田専務がそう感じたのは5年前、特別支援学校の教員を辞め、家業を継ぐ決意を固めて関東から北陸に戻ったときのことだった。以来、浜田専務は父である浜田登社長(63歳)の経営方針(社員を信頼し自由にやらせることと顧客第一主義)に則り、配送や営業のかたわら、通販部門の責任者となって矢継ぎ早に手を打っていったという。その中心事業が2019年2月に参入したネット通販「紙の宅配便」だった。文面についても「専門用語を使わず、学校の瓦版のように馴染みやすい言葉を使うことで、当社や紙に興味を持ってもらえるようにした」と浜田専務は話す。

「今いる顧客が一番大事で関係性を強化していく姿勢は今後も変わらない」という浜田専務
顧客などに配っている手作り感満載の同社のニュースレター
倉庫では受注量に見合った量を確保し、在庫の適正化をすすめているという
                        

こうして同社のもとには、さまざまな問い合わせがくるようになった。たとえば2年前、ネットを通じて釣具店から「使いやすいドリップシート(グリーンパーチ紙)はないのか」という問い合わせが。ドリップシートとは魚を包んでドリップ(体液)を緩やかに吸収する破れにくい緑の包装紙のこと。主に鮮魚店などで使われているものだが、浜田専務は発想を転換し、食品包装用ラップフィルムに着目。ロール状に改良してテストマーケティングを重ね、「グリーンパーチロール」(商品名「おさかなパックン」)として販売してみることに。すると、売り上げは順調に伸び、「今は初年度の1.5倍に達している。独自のアイデアと流通網があれば、中小企業でも生き残れる」と胸を張る。今やこの商品の勢いは海外にも波及している。「鮮魚の鮮度保存」という文化がない中国や米国、シンガポール、オーストラリアなどの国々から、日本食ブームと相まって受注が急増しているのだ。
なお、同社のHPではトイレットペーパーのシングル・ダブルの違いなど紙に関する雑学も紹介するなど工夫しており、多い日で2万件ものアクセスがあるという。が、一方で顧客には手書きの礼状や手紙を送付するなどアナログ面での配慮も忘れない。「新規顧客は99㌫がウェブ経由だが、アナログのつながりを忘れずに関係を広げていきたい」と浜田専務。今や卸売からネット商社へと進化を遂げた同社、この新しいステージの土台となっているのは古き良き商売人の気質なのかもしれない。