(上写真)たわわに実る桃、黒ぶどう、シャインマスカット(左から)。完熟収穫した果実を全国に届ける

フルーツ王国・山梨のなかでも、桃やぶどうの産地として名高い日川の扇状地。この地に農園を構える㈱Takano Farmは、減農薬や有機質肥料栽培、完熟収穫にこだわった桃やぶどう(藤稔)、シャインマスカットを栽培し、産直で全国に届けている。また、独自製法によるフリーズドライ製品は贈答用としても人気を集めているという。

その成功の秘訣は商品づくりへの徹底したこだわりだ。「通常、桃もぶどうも完熟しないうちに市場に出荷され、5日以上常温にさらされる。しかし、当園は心底、おいしい果物を味わってもらいたいという一心で完熟収穫をつづけている」と高野弘法社長(35歳)は話す。実際、同園では注文に応じて、完熟した桃やぶどうを数品種組み合わせるなどして定期直送している。だが、なかには「旬以外の時期にもおいしい果物を食べたい」という声も。そこで、高野社長は旬の時期に直送できなかった果物をフリーズドライ製品に加工することを思いついたという。
ところが、「いざ加工しようにも県内にはフリーズドライの装置がなく、他県のフリーズドライ専門業者に試作を依頼しても満足のいく出来にはならなかった」と高野社長。だが、それでも高野社長はあきらめず、山梨県で初となる真空凍結乾燥装置と最新鋭の急速冷凍庫を導入することを決意。クラウドファンディングを活用しながら試行錯誤を積み重ね、2年の歳月を経て、2019年にようやく桃、黒ぶどう、シャインマスカットを皮ごと加工した県内初のドライフルーツ果実「エアリーフルーツ」の初出荷にこぎ着けた。旬の時期以外でも同園自慢の果物を味わえるのはもちろん、砂糖不使用、濃厚な味わい、サクサクとした食感などが話題を集め、初出荷の翌年には前年比2倍の売り上げを達成し、リピート率も70㌫を超えたという。また、口コミで「ドライフルーツが苦手な人でもおいしく食べられる」といった評判が広がり、百貨店バイヤーからも声がかかるように。なんと昨年の中元商戦からは大手百貨店の「高島屋」も取り扱いはじめたそうだ。

山梨県初の本格フリーズドライ果実は桃・黒ぶどう・シャインマスカットを皮ごと加工した逸品
もぎたてのみずみずしいおいしさを味わってほしいと完熟収穫を心がけている高野社長
家族と同様、地に足をつけて地道に果物を育てている
                   

「フリーズドライ製品のおかげで、ブランディングに成功した」と語る高野社長だが、一方で「『餅は餅屋』という言葉を肝に銘じ、果樹栽培をおろそかにしないようにしたい」と気を引き締める。と同時に、黄桃やイチゴのフリーズドライ化のほか、フリーズドライ製品をチョコレートでコーティングするなどの〝ヨコ展開〟には意欲をみせている。
「100年先につなげる農業を確立するのが目標。そのためにも、人の心を惹きつけるフルーツと加工品をつくっていきたい」と未来をシッカリと見据えている。