2050年のカーボンニュートラル(※)に向けて、世界の自動車業界はEV転換に動いている。そうした流れにあって内燃機関の関連産業の裾野が広い日本では、自動車部品メーカーなどを中心に先行きへの不安が広がり、事業縮小や廃業を検討する事例も増えはじめている。だが、ドイツ政府の意向を受けてこれまでEV一辺倒だったEU(欧州連合)が「水素と二酸化炭素(CO2)を原料にした合成燃料「e-fuel(イーフュエル)」を使用する新車にかぎり販売を認める」いう方針に転換するなど、クルマの脱炭素化についてマルチソリューションを検討すべきという声が高まっている。その選択肢のひとつとして注目を集めているのが「水素エネルギー」だ。

水素由来のe-fuelは技術的なハードルが高いことやガソリンと比べて割高であることなど課題も多いが、環境負荷がきわめて少ないほか、従来のエンジンがそのまま使用できることから既存産業も存続できるなどメリットが大きい。また、当然のことながら水素エネルギーの可能性は自動車業界のみにとどまらない。たとえばEV化が事実上不可能な航空機や船舶も、e-fuelへの切り替えによってカーボンニュートラルを達成することができるし、グリーン水素を中心としたエネルギー生産の仕組みを整えれば、日本が資源・食料の輸入依存から脱し、純日本製エネルギーによって持続可能な社会・産業を構築することも可能だ。こうした可能性に対し、日本政府も先頃、5月末をメドに水素基本戦略を改定する方針を明らかにした。

そこで東方通信社が発刊する月刊『コロンブス』2023年5月号では、日本における水素社会構築の可能性について大特集。なかでも、元本田技研工業副社長で現在e-fuel研究に取り組んでいる入交昭一郎(い りまじり・しょういちろう)氏が提案する、e-fuelとグリーンアンモニアを軸とした日本型の国産エネルギー構想は必読‼ ぜひご一読いただきたい。

※カーボンニュートラル……温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。「全体としてゼロに」とは、温室効果ガスの排出をまったくのゼロにするのは現実的にムリなので、排出した分と同じ量を吸収または除去することで「差し引きゼロ=ニュートラル」を目指そうという意味合い。2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」を踏まえ、20年10月の臨時国会で菅義偉元首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。