(上写真)建材に用いられるパルプシート

常裕パルプ工業㈱は紙製品出荷額全国一の愛媛県四国中央市に拠点を構え、建材向け古紙パルプとアスファルトルーフィングといった主力事業のほか、近年は水洗トイレに流せる「おしりふき」などの水解紙事業に力を入れている。

井川達也社長は「『トイレに流せるおしりふき』といえば他社製品も市場に出回っているが、それらのなかには、水に解ける能力に乏しいものもある。その点、当社の製品は水解性に優れ、安心して使用できる」と優位性をアピールする。そして、水解紙関連への事業拡大で、これまでは「対事業所」に偏りがちだった顧客の幅が「対個人消費者」に広がりつつあるという。
水解紙関連の製品には「おしりふき」のほか、便器の表面に付着した汚物をそぎ落とすスティック状の紙「ベンコス」などがある。ともに使用後は水洗トイレに流せるのが特徴だ。開発段階で実証実験を重ね、水解性を高め、トイレに流しても目詰まりしない水準を確保した。いずれも持ち運べる大きさなので、外出先でも活躍する。「製品化にあたっては、地場産業としての紙ビジネスの発展を支援する愛媛県の協力を得て、地元の公的な研究機関と共同開発した。おしりふきは大人向けで、介護用に用いられ、ベンコスは一般家庭向けにECサイト、小売店で販売している」(井川社長)という。

新製品のベンコス(右)とおしりふき
「水解紙事業は顧客の幅を広げる試み」と話す井川社長

では、従来の主力事業はどのようなものなのか。まず建材向け古紙パルプ事業は、パルプを建材ボードのつなぎ材としてセメントなどに混ぜ込んで、住宅の外壁材に加工する事業。一方、アスファルトルーフィング事業は、屋根の下葺き材として用いられるアスファルトを含侵させたシートをつくる事業。同社はこうした事業で、とくに建材用古紙パルプでは国内トップシェアを誇っているが、いずれ「建材市場は人口減にともなって、住宅新規着工件数が伸び悩み、将来的には縮小する懸念がある」と井川社長は推測する。そのため「2020年から新規事業として、水解紙事業に乗り出した」と、事業拡大の背景を明かす。
水解紙製品のなかでも現在、同社がもっとも期待を寄せているのが先述したベンコスだ。業界でも初の製品化で特許も取得しているという。「認知度はまだまだ低いが、営業、宣伝活動をコツコツと積み重ね、店頭に置いてもらえる小売店を少しずつ増やしていきたい」と井川社長。「従来の事業とのバランスを取りながら、紙の可能性を信じ、会社を持続的に成長させたい」と抱負を語る。