( 左より)杉山所長、熊谷准教授、並木准教授、大同工業㈱の谷野開発部長

6月10日㈯、東京大学先端科学技術研究センターが、敷地内の13号館正面西側の地下につながる階段に設置された「車いす利用者のための階段昇降機」の事業報告会を開いた。これは運転係員が帯同しなくても車いす利用者のみで乗り降りできる昇降機で、石川県、(公財)石川県産業創出支援機構、東大先端研との連携事業で、先端研の研究者と石川県内企業の共同研究から誕生したもの。当日は開発を手掛けた大同工業㈱(石川県加賀市)の谷野和彦氏、石橋宗篤氏と東大先端研の所長・杉山正和教授、石川県、(公財)石川県産業創出支援機構など関係者が集まり、昇降機を実際に稼働させながら、開発にあたってのビジョンや機械の特徴などを説明した。

インクルーシブキャンパス環境整備プロジェクトの一環として2019年にスタートしたこの開発事業は、東大先端研のバリアフリー領域の熊谷晋一郎准教授、並木重宏准教授と協力研究員チーム、先端アートデザイン分野の伊藤節特任教授、開発事業者の大同工業㈱が参加してすすめられてきた。開発にあたっては、実際に車いすを利用する熊谷、並木准教授のバリアフリーに関する知見を最大限取り入れ、外観のデザインや機能性、その形状や素材、色彩など細部にいたるまで利用者目線にこだわって開発したという。おかげで使用感覚、乗り心地ともにピッタリと好評価だった。報告会当日は東大先端研のオープンキャンパスと重なり、車いすを使用しない一般参加者が試乗体験を希望するなど思わぬPR効果もあったと開催者、試乗した人たちからは「全然揺れない」「乗り心地がよい」などの声があがった。しかも外観はシックな茶系で使い心地の良い操作スイッチ、そして、木製手すりの温かみなど、その機能美に関心が集まっていた。

オープンキャンパスに訪れた人たちの関心を集めた

ちなみにこの昇降機、既存の階段の上に設置でき、通常階段としても利用できるため、汎用性の高い社会インフラになり得ると大同工業㈱の谷野氏。「車いすやベビーカーを利用する階段弱者だけでなく、将来的には筋肉が弱い人、身体が不自由な人にも『段差解消機』として使ってもらいたい」と話していた。インクルーシブ社会のビジョンが詰まった昇降機だ。