東京都心からのアクセスが良く、豊かな自然と特産品に満ち溢れた東京多摩地域。本コーナーでは、東京都商工会連合会 多摩観光推進協議会と連携し、新しい多摩の観光の魅力をお伝えしていく。今号のテーマは東京多摩の「モノづくり」。製造業から伝統工芸まで、地域に根づく多彩なモノづくりの魅力を体感できるイベントやスポットを紹介したい。

青梅市のモノづくり現場を
見学・体験できるイベント

まず紹介するのは「おうめオープンファクトリー」、普段は立ち入ることができないモノづくり工場を見学し、さまざまなモノづくり体験ができるイベントだ。かつて木材・織物の町として栄え、1980年代以降はハイテク産業の集積地として発展した青梅市では近年、大手メーカーの工場転出が相つぎ、大転換期を迎えている。こうしたなか、青梅商工会議所が地元のモノづくり産業の起爆剤としてこの工場見学イベントを企画、2019年から毎年開催してきた。22年の参加企業は23社で、その業種は電子部品の製造・加工工場や自動車整備工場、印刷会社、食品メーカー、老舗酒造会社、藍染工房などさまざま。青梅商工会議所によれば各企業からは「採用活動や新規顧客開拓につながった」「従業員のプレゼン能力や企画力、営業力の向上に役立てている」「工場見学が整理・整頓などのキッカケになった」といった声が届いているという。もちろん今年も「おうめオープンファクトリー2023」が11 月10・11日(金・土)に予定されている。いったいどんな企業が参加するのか楽しみだ。

驚異の吸水性を誇る
ホットマンのタオル

というわけで、そのオープンファクトリーへの参加を予定している老舗タオルメーカーのホットマン㈱を訪ねてみた。坂本将之社長(47歳)によれば、同社のルーツは明治元年創業の絹織物製造業で、昭和に入ってから綿製の婦人服製造に乗り出し、現在の主軸であるタオルの生産をはじめたのは1963年。現在では青梅市と埼玉県川越市に工場を有し、「商品企画からすべての製造工程、そして販売にいたるまでを自社で手掛けているのが強みだ」という。
同社の主力商品「1秒タオル」をご存じだろうか。このユニークな名称は驚異的な吸水性能に由来する。水面に1㌢㍍角に切ったタオルを落とし、それが沈みはじめるまでの時間をはかるJIS規格の吸水性判定法「沈降法」で、日本のタオルでは「60 秒以内」が基準とされるなか、同社の「1秒タオル」はなんと「1秒以内」をクリアするスグレモノなのだ。オープンファクトリーでは、このタオルがいかにして作られるか、その製造工程を見学することができるが、「何も特別なことはやっていない。代々の『誠実なモノづくり』へのこだわりを引き継ぎ、実践しているだけ」と坂本社長。「時間をかけて洗浄することで綿の油分を徹底的に落とすなど、手間を惜しまずあらゆる不純物を除去した結果、フワフワで素早く水を吸い込む1秒タオルを生み出すことができた」という。
オープンファクトリーでは「工場見学を通して当社の誠実なモノづくりに触れていただくとともに、かつてこの地域に根づいていた織物産業のことも知ってほしい」と坂本社長は話している。

老舗タオルメーカー、ホットマン㈱の工場見学の様子
「1 秒タオル」商品
「1 秒タオル」はベビー用品も好評
同社の坂本将之社長

八王子に根づく伝統工芸
「多摩織り」を体験

織物産業といえば、青梅市の南に位置する八王子市も江戸時代から養蚕業と絹織物生産の一大拠点として知られ、生糸や絹織物がヨーロッパ中に盛んに輸出されていた。現在、この伝統産業は形を変えて地域に息づいており、八王子織物工業組合がネクタイなどを多数生産し、「八王子織物」として高評価を得ている。また、同組合の建物内には、その八王子織物のネクタイやマフラー、ストールなどを販売する直営店「ベネック」があるほか、伝統的な手織り体験も実施している。伝統工芸士の手ほどきを受けながら機織り機を使って「多摩織り」のランチョンマットなどを作る体験で、事前に申し込みが必要。手仕事に興味がある方はぜひ問い合わせてみてほしい。

八王子織物工業組合での「多摩織り」の手織り体験

サンドブラストによる
ガラス工芸専門の工房

東京多摩地域の「モノづくり」は、地場産業や伝統工芸だけではない。豊かな自然環境や首都圏からアクセスしやすい利便性などを背景に、数多くの個人のモノづくり作家が工房を構え、さまざまな体験教室を手掛けているのだ。そのひとつ、東村山市の「T’ARTONGLASS(たぁとんグラス)」を紹介したい。ここは「サンドブラスト」を専門とするガラス工芸工房。サンドブラストとは、ガラス素地に異なる色のガラスを薄く被せかけた「色被きせガラス」の表面に細かな砂(研磨剤)を吹きつけ、模様を彫刻していく技法のこと。代表の田代貴子氏(53歳)はこの技法による美しい表現に魅せられ2006年に工房をオープン、サンドブラストガラス工芸専門の作家として活動するかたわら、工芸教室を営んできた。
入会して定期的に教室に通う生徒は、趣味でノンビリ制作を楽しむ人、自身の作品制作に取り入れるためにサンドブラストを習得したい人などさまざまだが、初心者はまず体験コースがオススメ。カンタンな模様や文字をサンドブラストでガラス表面に表現する一連の工程を2時間ほどで体験することができる。
ちなみに田代氏はこの秋頃からあらたに、将来、サンドブラスト作家や起業を目指す人向けの「プロフェッショナルコース」をスタートする予定で「何らかの形でサンドブラストの技法を受け継いでくれる人を増やしていきたい」と話している。また「サンドブラストの魅力を多くの人に知ってもらい、裾野を広げたいので、一般の工芸教室にも引きつづき力を入れていく」とも。

ガラス工芸工房「T'ARTONGLASS」にて、田代氏のサンドブラストによるガラス工芸作品
体験コースの様子
まず「色被せガラス」のグラスの表面にシールを 貼って、それを表現したい模様や文字の形にナイフで切り抜く
グラスをサンドブラスト機のなかに入れて砂(研磨剤)を吹きつけてガラス表面を削る
シールを剥がし、よく洗えば完成。砂の吹きつけ具合を調整することでガラス表面の色合いや風合い、模様の浮かび上がり方などが変わってくるのがおもしろい

芸術の秋、多摩の地場産業や伝統工芸、そして工芸教室でさまざまな「モノづくり」の現場を見て、体験してみてはどうだろうか。

今回の記事については、東方通信社グループの YouTubeチャンネル『コロンブスTV』の番組「東京TAMAらん旅図鑑」で関連動画を公開中!ぜひご視聴ください!