■他社と一線を画した「膨張率」へのこだわり

発泡スチロールというと、まず 100円ショップやホームセンターで安価に販売されているスチロール箱などを思い浮かべる人が多いだろう。事実、発泡スチロール業界は価格競争が激しいが、そうしたなかにあって栃木県の発泡スチロールメーカーの(株)カルックスはそうした安売り合戦からは距離をおき、高品質な製品を世に送り出している。

 

何よりこだわっているのは「膨張率」だ。発泡スチロールは直径1mm未満の球体のスチロール樹脂を加熱して膨らませてつくる。一般的なスチロールなスチロールは60~70倍まで膨張させるが、森田壮重社長(66歳)は「膨張率を高くすると製造コストが抑えられ、少ない原料で大量生産できるが、一つひとつのセル(気泡)が大きくなって気密性や断熱性が低くなり、強度ともに落ちてしまう」として、同社は特殊な生産ラインで膨張率を20~30倍にとどめ、気密性、断熱性、強度ともに高い水準を保っている。

 

価格は一般製品に比べて2~3割ほど高くなるが、医薬品メーカーや高級食品を扱う企業などスチロール箱の保冷性や耐性を求める業界を中心に安定した受注を受け、順調に業績を伸ばしている。容量150Lの最大サイズから1.6Lの最小まで約120種がラインアップされている。

「品質向上を追い求めたい」と語る森田社長

■色彩という多数の選択肢がもたらす価値

森田社長があげる同社のもうひとつの強みは着色技術だ。通常のスチロールは白色が基本で、箱に色をつけるとなると製造設備をその都度、念入りに清掃して色を落とさなければならない。だが、同社は独自の製法で5~6種類の色づけを行っている。「小ロット、多品種生産」をモットーに十数個単位の小口注文から受け、顧客のニーズに柔軟に対応する営業を心がけ、47都道府県のさまざまな顧客に納品している。

信頼性の高い製品を送り出すカルックス

■価値がやがて強みになり、そこに道ができる

コロナ禍で国内外の産業は一様に打撃を受けたが、同社は品質の高さが奏功し、ワクチンの輸送用スチロール箱の売り上げが急増。森田社長は「品質向上を追求しつづける、という経営方針が間違っていないことが裏づけられた」と胸を張る。ここ数年、アウトドアブームの高まりで国際的な用品メーカーや国内の有名釣り具メーカーからクーラーボックスの断熱材の受注が増えていることも追い風だ。

こうして急成長、急拡大の波に乗る同社だが、社会貢献にも熱心で、地元の障害者施設からクーラーボックス用のひもの納品を受けているほか、災害発生時には救援物資の運搬用のために自社製品を提供している。森田社長は「これからも地域を大事にしながら、品質重視のオンリーワンの道を歩みつづけたい」と前を向いている。

コロナワクチン輸送箱を地元自治体に提供する社会貢献も
社長の自社採点

仲山親雄さん : ナック・ワース・プロ(有)中小企業診断士

太鼓判押します!

森田社長率いるカルックスは、食品・生鮮品などを冷凍冷蔵のまま保管し輸送するうえで欠かせない発泡スチロール製輸送箱の、東日本におけるトップメーカーです。その品質が高く評価され、コロナ禍での検査キット用や近年では医療試薬用や生殖細胞用などにも使われ、ユーザーから信頼を得ています。最近は生産性向上のための設備投資で競争力を高めるとともに、IT 投資や若い有能な人材の確保・育成にも意欲的であり、将来のさらなる発展が期待されます。