■規格外みかんの価値向上と地元への利益還元のために

高知県香南市は「山北みかん」の産地として知られる。四国では愛媛みかんが全国的に有名だが、地元では「山北のほうが甘くておいしい」と根強いファンが支持している。が、大きさや形が不揃いだったり、皮に傷がついていたりして市場に出せない規格外の果実のことが課題に。規格外みかんの総量は年間100トンに上り、全量がジュースなどの加工用に回されるが、その買い取り価格は1㎏わずか7~8円。農家経営を支えるにはいたらない。そのうえ、地域にはみかんの搾汁施設がなく、すべて他県に流出し、地域経済に利益が還元されることがない。

こうしたなか、市をあげて設立されたのが(株)山北みらいだ。規格外のみかんの年間総量の3分の1に当たる33トンを買い取ってみかんジュースに加工して売り出す。買取価格は1㎏当たり約50円と高く設定、以前の6~7倍の収入を農家にもたらしている。この規格外のみかんの有効活用を思いついたのは、同社の堀川里望(りぼう)社長(45歳)だ。堀川社長は元香南市職員で、農林課に配属された30代のとき、規格外みかんが有効活用されていない現状を目の当たりにし、行政マンとして忸怩(じくじ)たる思いを抱いたという。間もなく市役所を退職し、山北みらいの社長になるにあたっては「ものすごく悩んだが、地元の農業の立て直しに貢献したいという思いが強く、決断した」と振り返る。

「地域農業の可能性を押し広げたい」と 語る堀川社長
新規就農者としても期待される地域おこし協力隊メンバー

■おいしい山北みかんを贅沢に、そして濃厚に

主力商品は果汁100%の山北みかんジュースだ。720mlのひと瓶に15個ものみかんを使っている。「みかん100%」とうたいながら、実際はオレンジなどほかの柑橘系果実を原料に含むジュースが少なくないなか、同社のジュースは正真正銘の100%、堀川社長は「これだけ贅沢に使用しているのは珍しく、非常に濃厚」と胸を張る。現時点では自前の搾汁設備がなく、他県の加工会社で搾ってもらい、それを自社でジュースにしているが、「将来的には完全自社製造を実現し、農家からすべての規格外みかんを買い取る体制にしたい」と意気込む。

 

■まだ見ぬオレンジ一色に染まる山肌を目指して

堀川社長の耳に今でも残っているのは、行政マン時代に地元農家から聞いた「昔は山の斜面が一面みかん畑で、山肌がオレンジ色に染まっていた」という言葉だ。「農家の高齢化と後継者不足によって、ここ10年間で市内のみかん農家は230軒から190軒に減った。耕作放棄地が増え、山肌はオレンジ色と茶色のまだらになっている」と語る。みかん畑の縮小を食い止めようと、農業継続をあきらめた農家から畑を借り受け、自社でのみかん栽培にも取り組んでおり、その面積は現在のところ2万平方m、今後も拡張する考えだ。

担い手確保についても地域おこし協力隊制度を生かし、これまで4人が従事し、うち2人が現地で就農をはたしたそうだ。「オレンジ色の山肌を復活させたい」。堀川社長は決意を胸に事業に励む。

オレンジ色に染まる山肌の復活を目指す

清岡直樹さん 高知県産業振興センター

太鼓判押します

「持続可能な山北みかん産地」を目指して、地域全体を巻き込みさまざまなことに取り組んでいる企業です。高知県内の商工分野でもっとも歴史のある表彰制度「高知県地場産業大賞」で昨年度、同社の取り組みが奨励賞を受賞しました。今、高知県で注目されている企業のひとつであると考えています。僕も大好きな山北みかん。持続可能な産地に向けた取り組みに今後も期待しています。