■沖縄で愛されてきた発酵飲料「みき」に触れて

沖縄では「みき」と呼ばれる発酵飲料が古くから愛飲されている。名称は「お神酒(みき)」に由来し、毎年の豊年祭など地域の祭りではきまってお供え物として出てくる。米を醸造させた飲み物で、甘酒とヨーグルトを混ぜたようなやさしい甘味とほんのりとした酸味が味わえる。

そのみきを製造・販売しているのが、来間島に拠点を置く「来間島みき」だ。来間島は宮古島の南西約1.5kmにある人口約160人の小さな島。代表の砂川葉子さん(48歳)は23年前にこの島に嫁いできて、各家庭で代々、おばあたちがみき造りを受け継いでいる風習に触れた。そして「みきは単なる飲み物ではなく、土地の信仰、民俗、歴史に根づいていたものだ」と実感し、地元のおばあから造り方を教わって習得したという。

「みきの魅力を伝えたい」と語る砂川さん

■島と文化継承の危機と起業

ところが、島内唯一の小中学校が廃校に。このままでは島はどうなってしまうのか、と将来に不安を覚えた砂川さん、島の伝統文化を守るNPO法人来間島大学まなびやーを2014年に設立し、17年より公設市場で「来間島みき」を運営、みきの製法を伝授するワークショップとみきの製造販売をはじめた。砂川さんのみきの製法はおばあ直伝、ノンアルコールで砂糖や添加物不使用。約3日間、常温で発酵させると、酸っぱいにおいが漂い、容器にプクプクと泡が出てくる。これができあがりのサインだ。

メニューはベーシックな「みきナチュラル」のほか、みきにバナナやマンゴーを混ぜあわせた「みきスムージー」などで、いずれも島内で生産。橋で渡れる宮古島にある宮古島市公設市場の直営ショップで販売している。

「みきスムージー」(880 円)などさまざまな商品が揃う

■普及と担い手の育成を今どきの手法で

また、砂川さんはみきの普及と造り手の育成にも尽力。前出のNPO法人来間島大学まなびやーでみき造りの事業化を目指す人などに本格的な指導をしている。さらに、みきを通じて島の自然や信仰、島民の暮らしに触れる2泊3日の体験旅行型のリトリート(自分と向き合う時間を過ごすこと)も実施。コロナ禍にあっては、ワークショップをオンラインにしたり、みきの容器をパウチ化してオンライン販売するなど柔軟に対応し、みきの魅力を発信してきた。

■近隣の島々との連携と、商品としての拡大

こうした努力のかいもあって、来間島大学まなびやーは先頃、沖縄県の琉球歴史文化コンテンツ創出支援事業の採択を受けた。砂川さんは「みきは来間島だけでなく、石垣島や鹿児島県の奄美大島にも根づいている。各地で材料や造り方が異なるので、それぞれの地域と連携しながらみきの個性を発信したい」と意気込んでいる。1mlに乳酸菌が2億個以上含まれているみきは、近年、健康飲料としても注目度が上がっている。今後の広がりに期待したい。

豊年祭のひとコマ。みきは神事には欠かせない

窪田和人さん 林檎プロモーション 『沖縄離島情報』編集長

太鼓判押します

私は旅行ガイドブック『沖縄・離島情報』の取材活動で奄美・沖縄に長年通っています。まだまだ認知度が低い発酵飲料「みき」を、沖縄の離島で県外から嫁いできた若い女性が製造・販売していることを聞いたときは驚きました。すぐに会いに行き、その一生懸命さと文化の継承を考えた姿勢の素晴らしさに一瞬にして惚れ込みました。彼女を応援したい、そして文化的に意義がある沖縄での「みき」の継承に可能性とおもしろさを強く感じています。