しっかり取り組めれば、産業、大学、政府にとって大きなメリットを生むのが産学官連携。しかしその現状として、「研究成果の社会的活用が不十分」「研究投資額が海外に比べてもかなり低い」「個人の能力を最大限発揮する組織やシステムが整っていない」などの課題が山積しています。地元の産学官連携のプロジェクトへ参加する中で、しっかりと自社のコアコンピテンシー(核となる技術)を磨き、循環型社会の中で活用が期待されるシリカを含油するもみ殻灰精製という快挙をやってのけました。知・技を磨くことで企業が輝く最たる例ではないでしょうか。

■もみ殻処理炉が開くバイオマス資源の道

金属溶解炉や熱処理炉などの工業炉メーカー、北陸テクノ㈱が、バイオマス資源として期待される稲の「もみ殻」の完全リサイクル化に道筋をつけた。コメを主食とする日本で大量に発生するもみ殻は再利用が難しいとされていたが、同社は独自の熱処理技術を応用した「もみ殻処理炉」の開発に成功。もみ殻には農業肥料や工業資材として広く使用されミネラル分として知られるシリカ(二酸化ケイ素)が含まれていることもあり、この環境炉事業があらたな事業の柱になることが期待されている。

■研鑽と研究、磨いた技術が大きな成果を上げる

環境炉事業のベースになったのは、地元・富山の産学官連携による「もみ殻循環プロジェクトチーム」に参加し研鑽を積んだことだ。「もみ殻処分と農業肥料への転用が最初の目的だった。はじめはなかなか成果が出なかったが、粘り強く研究を重ねることで、シリカを取り出すことに成功した」と木倉崇専務(46歳)は話す。

具体的には「もみ殻には約20%のシリカが含まれるが、高温状態(800℃以上)ではシリカが結晶化してしまい有価物としての利用方法がなくなってしまう。その点、当社のもみ殻処理炉は炉に送り込む空気量と炉内圧力を制御し、500~600℃に保つことができるため、高純度の非晶質・可溶性シリカを含むもみ殻灰を精製できる」という。こうして精製されたもみ殻灰は、国産植物由来の「ボタニカルシリカ」と呼ばれ、農業・工業だけでなく、食品添加物、化粧品・医薬品などでの用途も広がっている。

「今後はもみ殻から再利用されるシリカ灰を何に使うかが重要」と将来を見据える木倉専務
食品や化粧品・医薬品などにも使われる植物由来シリカ

■ワンストップの強みと「もみ殻処理炉」で国内需要と価値を喚起する

そんな同社の強みは、工業炉の専門メーカーとして、設計から据付後のメンテナンスまで一貫体制で対応できること。ベトナムに現地法人を持ち、タイ、インドネシア、メキシコなどの日系自動車メーカーなどに設備を納入している。そして現在、それらの海外拠点を生かし、コメが主食の国でのもみ殻処理炉受注も視野に入れているという。その一環として、2017年には環境炉事業部を立ち上げ、翌18年にはもみ殻処理炉を製造販売するNSIC(エヌシック)㈱を設立。20年には熱処理の受託加工を開始するなど、あらたなビジネスをスタートさせている。

もみ殻処理炉は端緒についたばかりで国内需要の喚起はこれからだ。「日本は稲作国家であり、かならず、もみ殻が出てくる。循環型社会を形成するうえでも、高品質なシリカをどう活用していくかを真剣に考えなければならない」と木倉専務は話す。

19年には経済産業省の「はばたく中小企業300社」に選定された同社。まさに今後の飛躍が楽しみな元気企業だ。

立山連峰を東にいただく中核都市・射水にある北陸テクノ本社
専務の自社採点

今井秋宏さん 富山県新世紀産業機構 プロジェクト推進課 副主幹

太鼓判押します

同社の業務は工業炉の設計・製造が主ですが、本来は廃棄物扱いの「もみ殻」に私たちには見えない将来性を見出して大学や地元のJA などと協力し、このもみ殻から「シリカ」を製造する技術の研究に取り組んでいます。同社に訪問したことがありますが、丁寧に対応いただき、社長はじめ比較的若い方々のこの事業に対する真摯さを感じました。工業炉製造とシリカ製造。製造業界の「二刀流」を実現することも夢ではないと確信しました。