サスティナブルな経営とは、環境や社会、経済の3つの側面を長期的に持続できるようにバランスを取りながら成長を目指す経営スタイルです。しかし、就労者減の課題を抱える畜産業にとって、単体で事業と並行してSDGsの視点や取り組みを継続していくには大変な労力を必要とします。そこで、この企業のように、地域の畜産業と農業、販売と畜産の連携が有効な解決策となります。これらの連携により、品質や安全性を向上させるとともに、サプライチェーンを意識して環境負荷を見直しが可能です。さらに、循環型消費の実現や地域経済の活性化、畜産業の衰退に歯止めをかける取り組みなどの展望が開けます。このように、さまざまなビジネスストーリーに付加価値をつけて、消費者に分かりやすい形で届けることは、サスティナブルな経営の参考例といえるでしょう。

■地元ワイン農家との連携が生むブランド牛

ブドウの生産全国一の山梨県で畜産業を営む㈲小林牧場のイチオシ商品はなんといってもブランド牛の「甲州ワインビーフ」。なんと、甲州ワインをつくる過程で出るブドウの搾りかすの皮と種を5~8%の割合で混ぜたエサで肥育するのだ。ブドウの搾りかすにはビタミンやポリフェノールが豊富に含まれ、栄養価が高く、発酵させてから飼料に混合させるので、乳酸発酵品としての効果もあるという。当然、飼料には遺伝子組み換え物質は極力用いず、安全性にも配慮しているので、その味は天下一品、申し分ナシ。小林英輝社長(46歳)は「飼料にブドウの搾りかすを入れることで、肉質が良くなり、旨みが増すといわれているので、自信を持って食卓に届けることができる」と胸を張る。

「安全・安心でおいしい牛肉を届けたい」と語る小林社長

■ブランド牛を育て、系列で売るというビジネスモデル

そんな同社の牧場は標高1,000mを超える高地にあり、澄んだ空気と良質な水と飼育環境にも恵まれている。4ヘクタールの牧草地に15棟の牛舎があり、約1,400頭の肉牛を飼育している。このうちワインビーフの肉牛は1,200頭弱を占め、残りの牛は黒毛和種でこれにも「甲州牛」というブランド名がついている。24カ月の飼育期間を経て出荷され、主に同社系列の直売所で販売されるほか、レストランなどの飲食店に卸しており、オンラインショップでも入手可能だ。

豊かな自然環境で育てられる肉牛
ワインビーフは牧場の直売所で主に販売される

■行きつく先は畜農連携とサスティナブル経営

こうした取り組みを推進する一方で、同社は「サスティナブル(持続可能性)」を経営の柱に据えている。ブドウの搾りかすを活用したのもその一環で「もともとは産業廃棄物として捨てられていたので、それを飼料の一部として再利用することにした」という。また、牛のふん尿を堆肥にして農家に提供し、肥料として活用するといった取り組みも推進している。飼料の稲わらを農家から譲り受け、「畜農連携」にも奮闘している。さらに、牧場では雑草は羊に食べさせ、一切、農薬を使っていないという。
小林社長によると「輸入飼料には農薬を使ったり、遺伝子組み換え物質が混ざっている場合もあり、近年は安心・安全な国産飼料を使うようにしている」そうだ。そして、最近は「飼育コストの増大や経営者の高齢化、担い手不足などが相まって、県内でも5~6軒の牧場が廃業に追い込まれている。今後は廃業した牧場を買い取って、畜産業の衰退を食い止める取り組みにも注力していきたい」と力強い。サスティナブルな経営拡大が畜産業の未来を切り拓くことになるか。今後の動向が楽しみだ。

社長の自社採点

坂本秀二さん 山梨県よろず支援拠点

太鼓判押します!!

同社は、空気が澄んだ高地でストレスのない健康な牛を育てています。山梨県の特産品のワインから出る搾りかすと、日本のミネラルウォーターの約4 割を産出する甲府のおいしい水を牛に与えるというこだわりようです。県内3カ所で経営している直販店も大人気となっています。近年、牛肉といえばサシが多く入った霜降りが人気ですが、小林牧場の牛肉を通じて、ぜひとも全国の皆さまに赤身のおいしさを味わってほしいと思います。