超臨界流体技術は、分離・抽出以外にも、微粒子化、反応、発泡などの分野で応用されています。ここで紹介する超臨界二酸化炭素抽出は、有機溶媒を使用する方法に比べて、環境負荷が低く、製品の品質や安全性が高いというメリットが生まれます。他の分野での技術利用でも、品質や安全性の確保、分解・無害化、微粒子の純度や均一性の向上など、さまざまな可能性をもたらすことがわかってきました。社会課題解決において、環境負荷低減、再生可能エネルギーや新エネルギー創出、健康や美容などのライフスタイルへの寄与、各産業の競争力強化の一翼を担い、貢献できる力を秘めています。効果を用途と掛け合わせることで「できること」や「効能」「応用」への期待感は膨らみます。大学発のベンチャーだからこそ、研究力に長けており、これからも新たな可能性を切り拓いていく力があると思います。

■大学発ベンチャーから技術を磨いてきた企業

日常の生活では、物質は「気体」「液体」「固体」のいずれかの状態(物質の三態)で存在するが、特定の値(臨界点)まで温度と圧力を高めると、液体と気体の両方の性質を兼ね備えた「超臨界流体」という状態になる。この超臨界流体技術を用いて、新製品の受託開発や新規事業の立ち上げサポートなどを行っているのが超臨界技術センター㈱だ。

同社は2013年に設立、名古屋大学発のベンチャーとして超臨界流体技術の社会実装を加速してきた。とくに超臨界状態の二酸化炭素を溶媒として、対象物から目的の物質(成分)だけを分離する「超臨界二酸化炭素抽出」を強みに、食品、香粧品、医薬品、樹脂材料など、さまざまな業界に技術提供を行ってきた。

■超臨界流体技術の応用をビジネスにつなげて

同社の田中雅裕社長は「たとえば、一般的なドライクリーニングでは石油系の有機溶媒(薬品)を用いるが、超臨界二酸化炭素で代替すれば、環境負荷を最小限に留めながら繊維に付着した油汚れを落とすことができる。また、有機溶媒を使うことなく植物から芳香成分を抽出することも可能で、より天然の香りに近く安全・安心なアロマオイルを製造できる。超臨界流体技術は持続可能な社会の実現に大きく貢献するポテンシャルを秘めている」と説明する。

2016年からは、コーヒーに含まれるカフェインを取り除く「デカフェ」の研究をスタートし、独自のカフェイン除去プロセス(Green Decaf Process®)を確立。20年には、国内初となる超臨界二酸化炭素を利用したデカフェコーヒープラントを立ち上げた。

韓国で行われた「超臨界流体技術に関する国際シンポジウム2023」に参加した田中社長
多数の超臨界抽出装置や分析設備が揃う

■商品開発支援から社会課題の解決に貢献する夢が広がる

「世界で流通しているデカフェコーヒー豆の8割は有機溶媒で処理されたものだが、日本では安全性の観点から、それらの輸入は禁止されている。代わりに長時間、熱水にさらすことでカフェインを除去したコーヒー豆が輸入されているが、風味に乏しい。その点、弊社の方法だと短時間で処理が終わり、コーヒーオイルやポリフェノールといった香味成分はそのまま残るので、香り豊かでおいしいデカフェコーヒー豆ができあがる」と田中社長は胸を張る。

さらにこの技術を茶葉に応用し、カテキンやテアニンといった機能性成分や旨味成分を残したままカフェインを除去することにも成功。地元三重県の特産品である「かぶせ茶」や「伊勢抹茶」のデカフェ商品の開発支援も行った。「現在は廃プラスチックをケミカルリサイクルする研究に取り組んでいる。これからも超臨界流体技術で社会課題の解決と地域の活性化にどんどん貢献していきたい」と田中社長は意気込んでいる。

デカフェに成功した伊勢抹茶
社長の自社採点

立道和久さん 三重県よろず支援拠点くわなサテライト

太鼓判押します!

超臨界状態では、物質が気体のような大きな拡散性と液体のように物質を溶かす性質をあわせ持ちます。超臨界技術センターは超臨界二酸化炭素を使って、さまざまなものから必要・不要なものを抽出・除去する技術を持っています。常温分離で製品劣化の心配がないため、細胞内の成分を変化させずに選んで取り出すことができます。廃液が出ないため環境に優しい技術で、高付加価値な製品づくりに最適です。