コールドチェーンという物流システムが注目を集めています。これは生産→輸送→保管→輸送→販売→消費というプロセスで途切れることなく最適な温度(低温・冷蔵・冷凍)に保って行われる物流方式のことです。市場規模は世界・国内ともに右肩上がりで拡大中です。成長の裏には、食品通販、医療分野でのワクチン冷凍輸送などの機会拡大で、鮮度・品質維持のニーズが高まったことが考えられます。品質維持、長期ストックなどメリットも多いですが、設備投資、高い技術と管理能力、しっかりした輸送リソースなどの課題もあります。この企業は鮮度・品質維持もさることながら、雇用創出や地域ブランディングも成し遂げている点が注目すべき点として挙げられます。

■隠岐の魚介を急速冷凍技術で商品化

山陰沖に浮かぶ隠岐諸島の中ノ島(島根県海士町)。この島で近海の魚介類の冷凍食品加工・製造を手掛ける㈱ふるさと海士(あま)は、独自のネット通販サイト「島風生活。」で看板商品の白イカやいわがき春香を全国に届けている。これらは急速冷凍技術(CAS)を用い、鮮度低下という難問を克服した逸品で、首都圏の大手居酒屋チェーンやすし店、有名百貨店のギフト向けに納入されてきた。だが数年前からのコロナ禍や自然環境の変化による一部原料の大不漁で逆境に。現在はあらたな魚介商材を発掘するなど、商品開発に乗り出している。

■急速冷凍技術は地元雇用と地産地消・観光PRを見据えて

そもそも海士町がCASを取り入れたのは2005年のこと。これはマイナス55℃まで一気に温度を下げ、食材の組織を破壊せず鮮度を保つという技術。その運営会社が第三セクターの㈱ふるさと海士だ。「CAS加工場設置で雇用を生み、地産地消の流れをつくり、観光PRにもつなげたい」と奥田和司社長(65歳)は、東京で地元海産物の発表会を開催した。すると岩ガキなどがプロ料理人から高評価を受け、その人気のおかげで「島風便」という自社サイトを開設することになった。サイトに並んだ白イカやいわがき春香のほか、シマメ(スルメイカ)の醤油漬けなどの加工品が隠岐の自然が生んだ海産物として一躍、全国区になった

「雇用、地産地消、観光PRの三方よしの仕組みをCASでつくれないかと考え、事業を牽引してきた」と話す奥田社長
大漁が待たれる隠岐を代表する味、白イカ

■需要変化と不漁が新商品開発に全力に向かわせた

だがメインだった業務卸はコロナ禍で飲食店向け需要が低迷。しかも主力の白イカが大不漁で、「ここ3年の漁獲量は6分の1程度」になっていると奥田聡営業部長(36歳)は嘆く。目下、B to Cの通販に注力し、今秋からは「大量に収穫・販売するやり方を見直し、あらたな商材の加工製造に取り組みはじめている」という。その商材とはマグロとスマガツオで「年内にも自社の通販サイトで販売を開始する予定だ」としている。

魚介以外では、全工程に1~2カ月かけてつくる天然の「海士乃塩」などのソルト6種も山陰の土産物店などで販売しており、順調に売り上げを伸ばしているそうだ。「以前は魚介の大量注文に応えるので精一杯だったが、今は商品開発に目を向け、足場を固めていきたい」と奥田部長。一方で、不漁がつづく白イカも漁獲高が戻る兆しが少し見えてきたとのこと。あらたな特産品づくりを目指して全力投球する毎日だ。

自然豊かな海辺にたたずむ社屋と工場
社長の自社採点

大江和彦さん 海士町 町長

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