段ボールの構造であるトラス構造は、部材同士を三角形につなぎ合わせた形になっています。三角形は四角形よりも強い構造体です。橋や屋根などにも使われる構造を、紙という素材で実現しています。だから段ボールは軽くて丈夫で、値段が安く、リサイクル可能で、加工がしやすいなどの特長があり、さまざまな方面で利用されています。重ねたり、貼り合わせたり、切ったりと、加工方法は多様です。話題にもなった東京オリンピックの選手村に配置されていたベッドは耐荷重200キログラムを誇り、大いに関心を持った人もいました。この元気企業もベッドをはじめ、子供たちの遊具などモノづくり精神にあふれた前向きな開発スタンスが素晴らしい。そうした心意気は地域にもいい影響を与えていくと期待してしまいます。

■葛飾区のモノづくり文化を伝える町工場

町工場の生き生きとした姿を披露し、製作体験を通じて東京・葛飾区のモノづくり文化を多くの人に知ってもらおうと2019年にはじまったイベント「かつしかライブファクトリー」。段ボール製品製造の㈲坪川製箱所は、その開催を呼び掛けた企業の1社だ。昨秋のイベントでは金属トレイへの模様・名入れ、ヌメ牛革を使った皮革染色や段ボール端材を使ったカードケースづくりを子どもたちに伝授した。

同社はもともと食材や製品の保存・梱包に関して、最終工程の印刷まで規格、サイズを問わず対応してきた。コロナ禍では飲食店向けの不振が響き売上減となったが、坪川恵子専務(55歳)は「飛び込み営業で100軒の新規受注があり、21年以降は右肩上がり」と堅調ぶりを示す。

葛飾のモノづくりを紡ぐ「かつしかライブファクトリー」の面々
見本市では緊急時用の段ボールベッドや備蓄用品入りの枕など、ユニークな商品を積極的に出展

■段ボールの可能性と夢を技術でカタチにしていく

「段ボールから夢をカタチにする会社」をモットーに掲げる同社は、独自製品の開発にも前向きだ。「積み上げたり、畳んだり、塗色できるうえに、軽くて丈夫で再生利用可能という段ボールの特性を生かした製品づくりに取り組んできた」と坪川専務。

たとえば、台風19号被害(19年)のときに葛飾区内の避難所に寄贈した段ボールベッドや段ボール枕もそのひとつ。その後、さらに改良を加え、今はセミダブルサイズのベッド下部に黒い袋と凝固剤入りの仮設トイレ12個を内設できるように改良した。さらに枕のなかには携帯用ライトや給水袋など非常時に必要な「賞味期限のない」ものを収納した。そのほか、家をかたどった組み立て式のロールペーパーボックス「もくもくイエー」もユニークだ。煙突部分から出る紙が、たなびく煙のように見え、自由に色づけできるとあって、工作好きな子どもたちに大好評。「コロナ禍の緊急事態宣言時に従業員の子どもが段ボール工作で楽しそうに遊んでいたことに着想を得て、製品化した」そうだ。

「まずは『できるかもしれない』という視点でモノづくりに取り組んでいる」という坪川専務

■地域のサポーターとして街のために人のために

ちなみに、同社は地域貢献の一環として、社会人サッカーチーム「南葛SC」とのパートナー契約(22年3月)も締結。同チームの所属選手を雇用するなどして、アスリート支援にも力を入れている。また、地域において無償で防災授業も行っているほか、年初早々の能登半島地震では被災地支援のため緊急時用部材を仕入れ、現地へ送る準備もすすめている。「社会貢献を通じて、さまざまな顧客に選ばれる会社になりたい」と町工場の心意気を発信しつづけている。

専務の自社採点

三木正和さん 城北信用金庫 綾瀬南支店 支店長

太鼓判押します!

(有)坪川製箱所は、普通の段ボール製造会社ではありません。お客さまは、ただ段ボールを買うのではなく、坪川さんから買うことに付加価値を感じるのです。社長のアイデア、専務の営業力(トーク)で知名度も上がり、葛飾区内の事業所なら誰でも知っている有名企業となりました。一方、地域貢献にも積極的で、葛飾区に防災用段ボールグッズの提供、地元サッカークラブ南葛SC への協賛など各方面に顔が利く有名人です。