長く続く大量製造、売りっぱなしの型抜き主体の刃物づくりは限界に達しています。一方で、昔ながらの日本の鍛冶屋の技術は世界的にも優れていると評価されています。特に製造と研ぎの技術は日本ならではのものです。研ぎにおいては、日本の刃物は世界中で高く評価されており、包丁や剪定ばさみなどの日用品から、医療用のメスや工業用の切断工具などの専門品まで、幅広い分野で活用されています。現代の鍛冶屋は伝統技術を継承しつつ、新たなニーズやサービスに対応していかなければなりません。元気企業が始めた「研ぎ」の新しいサービスは、良いものを長く使うという観点からも、技術を継承していく仕事としても、将来につながる素晴らしい取り組みだと思います。

■大量消費時代の鍛冶屋の生きる道

包丁を研ぎたい。が、近所に研ぎ屋がない――。そんな方におススメしたいのが、ふくべ鍛冶が提供するオンライン刃物研ぎ宅配サービス「ポチスパ」だ。

同社は1908年に野鍛冶の行商から創業し、以降、包丁やクワ、鎌、ナタなど農耕や生活に必要な刃物を鋳造してきた。4代目の干場健太朗社長(43歳)によれば、「もともと初代の勇作は、馬車で奥能登各地をめぐり、刃物の修理や製造を行っていた。社名の〝ふくべ〟は瓢箪の別名で、勇作が酒入りの瓢箪をいつも腰にぶら下げていて、〝ひょうたん鍛冶〟のあだ名で親しまれていたことに由来する」とのこと。初代の行商スタイルは今も受け継がれており、同社では地域で移動販売を行う会社と連携し、移動鍛冶サービスも行っている。

元能登町役場職員で、30 歳半ばで家業を継いだ干場社長

■研ぎの工程を見える化して突破口に

そして、さらに多くの人に刃物修理サービスを提供するために2018年からはじめたのが「ポチスパ」だ。これは、ネットでポチっと注文すると、専用ボックスが自宅に送られてくるので、それに包丁を入れて郵送すれば、職人がスパッとした切れ味に研いでくれるという宅配サービス。
本数に応じた固定価格制で、1本なら郵送料込みで2,780円(税込)、5本まとめて依頼すると7,580円の割引価格となる。「なかには傷みが激しく、研ぎに長い時間を要して代金に見合わない包丁もあるが、トータルで見れば、固定価格でも十分採算がとれる。また、すべての依頼を独自開発のシステムで管理しており、どの包丁がどの作業工程まですすんでいるのか、リアルタイムで確認できる。修理前後の画像データも記録しておくことで、お客さまとのトラブル防止にも努めている」と干場社長。こうしたたしかな品質管理と手軽さが好評で、これまでの累計修理本数は50万本を突破。会員数は7,000人を超えている。

発送から1~2週間ほどでスパッとした切れ味に包丁が蘇る
工場には刃物、金物を販売する店舗も併設

■ビジネスモデルの共有で地域にも活力を

さらに現在はポチスパのビジネスモデルを地域のパートナー企業に提供することもすすめている。たとえば、輪島市の「杉本木工工房」はポチスパの受注管理システムを活用して、オンラインのまな板削り直しサービスをはじめる予定だ。

「先日の令和6年能登半島地震では、在籍スタッフの大半が被災し、自宅が全壊、半壊したなかで勤務をつづけている者もいる。地域の工場や職人も大きな被害を受けた。奥能登の産業復興のために、これから頑張っていきたい」と干場社長。目下、1月下旬からは震災復興を加速させるためのクラウドファンディングを実施予定。同社の取り組みを応援したい。

社長の自社採点

門前哲也さん (公財)石川県産業創出支援機構 成長プロジェクト推進部 新商品・サービス開発支援課長

太鼓判押します!

抜本的にウェブ戦略を見直すなかで生まれたのが包丁研ぎや修理をオンラインで受けつける「ポチスパ」。当機構のチャレンジ支援ファンドを活用し、サイトのリニューアルや販促物などを充実させたことで、ネット以外にホームセンターや雑貨店などへも販路を拡大しています。震災復興へ(株)ふくべ鍛冶様の活躍を大いに期待しています。