林業は、日本の伝統的な産業であり、森林資源の利用や保全に貢献しています。しかし、林業は、危険な作業であり、労働災害の発生率や死亡災害の発生率が高く、労働者の高齢化や減少、就労条件の低さなどの課題があります。林業の労働災害を減らすことは、林業の経営の継続発展や森林資源の利用や保全にも貢献します。そのためには、林業従事者の育成・確保や労働環境(教育や報酬)の改善、安全な作業方法や服装、機械の導入などが必要であり、林野庁や厚生労働省などが対策を講じています。林業は、持続可能な産業として期待されています。元気企業のように安全意識の向上が進み、労働安全対策の強化が整えば、林業の経営が継続発展することが期待されます。

■林業を安全な仕事に、その思いが取り組みを進めていく

林業から労働災害をなくしたい」――。㈲WESTの大野憲一社長(65歳)はその一心で林業に長年携わってきた。林業は巨木が相手で労災の発生率は全産業のなかでもっとも高いといわれる。一歩間違うと重大事故を招き、作業員が命を落とすことも珍しくない。そのなかに身を置きながら、大野社長は「林業特有の危険性が作業員ばなれを生んでいる」と実感。「林業から危険性を排除することが人材確保の王道だ」と、危険で過酷な仕事から安全で楽しい仕事への転換を試みている。

「労災ゼロの林業を目指す」と意気込む大野社長

■機械から安全性と作業効率を目指す

その意識は同社が開発した作業機器の数々にあらわれている。たとえば、林業の現場では切り倒した樹木を重機のバックホウのアームで掴み、車体を旋回させて持ち運ぶのが一般的。従来機は油圧で旋回を止める仕組みで、これだと木の重さによる惰性に負けて十分制御できず、現場作業員が事故に巻き込まれる可能性がある。そこで、同社は操縦席の床にクルマと同じような足踏みブレーキを設置し、制止能力を飛躍的に向上させて事故の軽減をはかる新製品「グリップる®」を開発。切り倒した樹木に対し、バックホウの従来機能であるアームで引き寄せ、掃除機のコードを巻き取るといった「アームウインチま~たん®」を完全・安価に開発することで、安全性と作業効率をアップさせた。

これらが評価され、2023年度には農林水産技術会議会長賞(民間企業部門)を受賞。比較的低価格であることも歓迎され、受注が急増しているという。同社はSDGsへの貢献にも力点を置いている。事実、グリップる、まーたんはいずれも非油圧式で、従来機よりも燃料の消費量を軽減できており、「森林を健全な状態で維持し、CO2などの温室効果ガスの削減につなげたい」と。また、間伐作業にも積極的に取り組んできたという。

グリップるの搭載で作業の安全性が増した重機
新製品開発をたたえる農林技術会議の表彰状

■伐採偏重から育林へ、未来に向けて取り組みを重ねる

こうした取り組みの積み重ねにより、同社は22年、鳥取県がSDGsに熱心な個人・企業にお墨つきを与える「とっとりSDGsパートナー」に登録されたが、その目線はさらに未来を見据えている。「国内の森林は現在、全国的に伐採過多に陥り、植林・育林がおろそかになっている。苗木が成木に育つまでに60年かかるなど、林業は一家3代でようやく成立する息の長い産業。目先の利益にこだわり、伐採偏重になる風潮に終止符を打ち、植林・育林との均衡を保つ林業を確立したい」と使命感に燃えている。

社長の自社採点

三田博司さん (公財)鳥取県産業振興機構 販路開拓支援部 販路開拓グループ コーディネーター

太鼓判押します!

「安全に作業すること」を重視し、効率の良い作業システムを構築する同社は「無いなら自社で作れ!」を社是とし、大野社長みずからの発案で、現場ニーズに応える機器を独自開発してしまうパワーあふれる企業です。経営理念の「社会に貢献する企業であること」にもとづいて外販もすすめ、今回、農林水産技術会議会長賞を受賞しました。これを機に、さらに作業改善や社会貢献につながる取り組みを推進していくことを期待しています。