自然乾燥だから出せる、干し柿の甘味・旨味・風味にこだわり

農家の軒下に柿が稲わらで数珠状に吊り下げられている光景は冬の東北の風物詩だ。柿は寒風を受けながら陽光を浴びて水分と渋味が抜け、甘い干し柿となる。近年は機械で乾かす製法が主流だが、㈾保科栄男商店は今も昔ながらの天日干しにこだわっている。保科栄文代表によると、天日干しの干し柿は機械乾燥のものよりも甘味、旨味、風味ともに勝り、機械乾燥特有の発酵臭もないそうだ。「以前、うちでも合理化をはかろうと機械式に切り替えたときがあったが、明らかに品質が落ち、すぐに元の天日干しに戻した」と保科代表は話す。

現在、同店は約1ヘクタールの柿畑を所有し、「蜂屋柿(はちやがき)」と呼ばれる品種の渋柿を年10トン前後生産している。収穫期は11月で、捥いだ柿の皮を手でむき、実の大きさによって3週間〜2カ月間、専用の干場で天日干しする。表面が乾いて飴色になったら完成の合図。「ほしな之あんぽ柿®」の商品名で出荷される。保科代表の話では、干し柿が市場にもっとも出回る時期は年末年始。天日干しは機械乾燥に比べて乾燥期間が長く、この需要期に出荷が間に合わないが、保科代表は「うちは出荷のタイミングよりも完全な状態で消費者にお届けすることを重んじている」と話す。長い時間をかけて天日干しでジックリと乾かした干し柿は、単純に乾燥しただけのドライフルーツと違い、実の中心が洋菓子のジュレのようにトロトロで濃厚。その味わいは古くから評価されており、大正時代の1925年には天皇家に納められ「献上柿」の称号を持つ。

「干し柿は天日干しでこそ良さが出る」と語る保科代表
献上柿の称号を持つ干し柿

地域全体で発展していきたい、狙う北米販路開拓

将来に向けて保科代表が考える次の一手は輸出の強化だ。同店の干し柿は機械乾燥のものより製造コストがかさみ、商品価格も2〜3割高いが、今も出荷量の4分の1は海外向けが占めているという。保科代表は「価格競争に巻き込まれず、質の高さを理解してくれる層にアピールしたい」と力を込める。その言葉を裏づけるかのように、国別の輸出先を見ると、富裕層の比率が高いシンガポールが圧倒的に多い。そして今後は北米での販路開拓を目指しており「長期間の船運送でも質の落ちない冷凍・保存技術の開発を検討している」そうだ。

ちなみに、同店は地域貢献にも熱心で、地元の農家に保科家直伝の製法で干し柿を作ってもらい、それを高値で買い取るなどして農家経営を下支えしているという。保科代表は「農家の高齢化、後継ぎ不足は当地でも深刻。農家が経済的に少しでも潤ってくれるようサポートし、地域全体で発展していきたい」と意気込んでいる。

寒風と陽光を浴びるつるし柿
出荷前の最終段階の包装作業

横山雄大さん
(公財)みやぎ産業振興機構産業育成支援部 事業支援課 主査

蔵王おろしと呼ばれる寒風でジッ クリと乾燥させてつくる「ほしな之 あんぽ柿 ®」。自然乾燥ゆえに出荷は旬な時期にかぎられますが、100 年以上の歴史ある製法を大切にし、妥 協のない品質に仕上げています。特徴的な風味や良質な食感により人気を得ており、首都圏や関西をはじめ、海外でも取り扱いが増加しています。これからも地域の特産品を守りなが ら、「ほしな之あんぽ柿 ®」のファンを増やしていってほしいと願ってい ます。