専門支援員が就労をサポートする職場を用意、企業のノウハウ不足を補う
近年、ビジネス界で注目を集めているのが「ダイバーシティー&インクルージョン」という社会的トレンド。このトレンドに参入し、話題になっているのが人材派遣やデジタルマーケティングを手掛ける㈱SANNだ。6年前に就労移行支援事業に着手したのを機に、グループホームの開設などの新規事業を展開している。経営企画室の室長で福祉Tech事業部の事業部長を兼任する田口晃氏(50歳)は「今年度から障がい者の法定雇用率が 引き上げられ、対象企業も拡大したが、就労支援のノウハウがない企業は多い。未成熟な市場であり、まだまだ開拓の余地がある」と参入の意義を強調する。
とりわけ、障がい者の雇用・就労支援のアウトソーシングを行う雇用創出事業については業界でも未成熟市場だ。そこでSANNは同社のサテライトオフィスを障がい者のための職場として使ってもらい、その場所で障がい者が雇用先から任された事務作業などに従事してもらう、というビジネスモデルを考案。このビジネスのポイントはただ一点、専門支援員が障がい者一人ひとりの特性を踏まえながら就労のサポートを行うことだ、と。ノウハウの乏しい企業にとって負担軽減につながるほか、障がい者もこれまでと生活環境がほぼ変わらず、安心して仕事に取り組める。
田口氏は「企業・障がい者双方から反応は良い」としている。なお、同社のサテライトオフィスが入居しているビルには就労移行支援事業所も入居しているそうで、障がい者にとっては利便性も高いという。
人材とITノウハウで他にないサービスを生み出す
また、同社では自社で経営するグループホームで働く職員の意見を取り入れながら、障がい者グループホーム向けの業務支援アプリ「ケア・オール」(https://care-all.jp/)を開発。グループホームの利用者をケアした際の支援記録の入力から各種請求書作成、家族や関係機関との情報共有まで一括で管理できるシステムで、利用者からは「実際に施設を運営している企業の開発商品であるため使いやすく、信頼性がある」と好評だ。今年1月の販売開始から89社が導入し、その半数以上が他社からの乗り換えだという。将来的に40%のシェア獲得を目指している。
今年で創業20年目を迎える同社は現在、年商は24億円、前年比120%の売り上げを達成するなど勢いに乗っている。福祉事業が売上全体に占める割合は13%ほどだが、8月にはあらたに生活訓練事業所を立ち上げ事業規模を拡大していくとしている。将来的には福祉事業の海外展開もはかると田口氏。飽くなき挑戦はつづく。
(株)SANN
東京都港区港南2-5-7 港南ビル6F TEL:03-6712-8345
設立:2005年 従業員:90名 資本金:3000万円
HP:https://www.sann.co.jp/
岩本義浩さん
東海学院大学 総合福祉学科 准教授
異業種参入が少ない障がい福祉業界では、同社のように人的サービスを生かして新事業を展開できるのは強みです。また、グループホームを自社で運営しているため、開発商品を導入することで直接的にニーズを吸い上げられるのも商品力の向上につながっています。今後、さらなる人材不足や高齢化でDX 対応が必須となるなか、同社の「ケア・オール」は初めの一歩となります。同社の取り組みがモデルとなり、ソーシャルビジネスが展開されていくことを期待しています。
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