近年、脱炭素の切り札として、沿岸域における海藻・海草の群落である「藻場」が注目されている。森林の約 2 倍のCO ₂を吸収するといわれ、全国各地で藻場の保全、回復に向けた取り組みが活発化している。たとえば静岡県牧之原市から御前崎市にかけての榛南(はいなん)海域では、30 年前に磯焼け(藻場で海藻が減少・消失してしまう現象)が深刻化したのを機に、はやくからさまざまな取り組みがすすめられてきた。この海域では、かつて約 8000 haあったとされるカジメ、サガラメの藻場が 2000 年頃までにほとんど消失。「カジメは貝類などの食料となるものだが、サガラメは人が食用としており、地元の特産品だった。漁師にとっては冬の貴重な収入源だったので、サガラメの壊滅で廃業した人も多かったと聞く」と話すのは、南駿河湾漁協の松本匡広氏。ほかにもこの磯焼けでイセエビやアワビなどがまったく獲れなくなったという。

こうした状況を打開しようと、県は 1999 年から藻場回復のためコンクリートブロックに伊豆海域のカジメを自然着生させ、ブロックごと榛南海域に移植する実験に乗り出した。結果、カジメが増えはじめたので、2002 年から10 年にかけてカジメの幼体(=苗)を取りつけたブロック2162 基を相良沖と御前崎沖に沈設する藻場造成工事を行い、18 年 6 月までに870 ㌶のカジメ藻場を回復させた。これらの活動に加えて、毎年、年間数千~数万のアワビ種苗の放流事業も行ってきた。おかげで5 年前からアワビ漁の試験操業がはじまり、今では年間 400 kgほどを市場に出荷できるまでに回復した。おかげでしらす漁を生業とする若い漁師ら15 人が、シラスの禁漁期間である1 ~ 3 月にかけてアワビ漁を行っているという。

だが、さらにこのアワビ漁を盛り上げていこうとしていた矢先、昨年の記録的な猛暑で海水温が上昇、黒潮の大蛇行で30 度近い高温の海水が 1 週間にわたり駿河湾に流れ込み、藻場が大きな被害を受けた。その影響でアワビの身が痩せてしまい、関係者たちのショックは大きかった。「今年は黒潮の流れが変わり、水温も低くなっているので期待したい」と松本氏。榛南地域磯焼け対策推進協議会では、2026 年までに 年間のアワビ類の漁獲量を1.8 t(年間)まで伸ばすことを目標としており、アワビ漁の本格的な復活に向けて、地球温暖化との攻防戦がつづいている。

(問い合わせ)南駿河湾漁業協同組合 御前崎本所
TEL:0548-63-3111
HP:https://minami-surugawan.jp/

磯焼けしている様子
坂井平田港潜堤(牧之原市)で育ったカジメ