自然発酵の伝統製法にこだわる

石川県は全国屈指のフグの産地として知られている。漁獲量は長らく国内一を誇り、近年になってこそ北海道にトップの座を明け渡したものの、2位を堅守している。そんなフグのメッカで、フグの珍味の製造をつづけているのが㈲荒忠商店だ。創業125年を迎える老舗で、5代目社長の荒木忠義氏(43歳)がのれんを守っている。

看板商品はなんといっても「ふぐの子糠漬(こぬかづけ)」(864円)。卵巣のプチプチした食感と発酵食品ならではの塩味の利いた旨みが最高で、ご飯のおともや酒のつまみに打ってつけだという。ちなみに、フグの卵巣には猛毒があるが、同社では1年間塩漬けした後、2年間糠漬けにしてじっくりと毒を抜いているという。あえて空調で温度管理をせず、夏は暑く、冬は寒い自然の気温に任せて発酵させる伝統製法を守りつづけており、漬け込み容器も創業時から木桶を使いつづけるこだわりぶりだ。荒木社長は「フグの解毒のメカニズムは今も未解明だから、製法を変えるに変えられない部分もある」と話す。

そのほか、北陸地方ならではのさば「鯖のへしこ」(972円)も人気だ。へしことは北陸地方の方言で、魚の糠漬け全般のこと。これも1週間以上塩漬けし、1年間糠漬けにするという息の長い工程を経て店頭に並ぶ。「お刺身でも、軽く炙ってもどちらも人気だ」と荒木社長。

そもそも、ふぐの子糠漬けは漬物の一種で、かつては保存食として地域住民にとって欠かせない日常食だった。しかし、食卓の西洋化や冷凍技術の発達などによって保存食としての需要が減り、今では嗜好品としての存在に。「以前は何十社も軒を連ねていた同業者も今では県内に6社を残すのみとなった」という。

ふぐの子には製造工程3年間の重みがある
鯖のへしこもご飯のおともにピッタリ

洋食との組み合わせも提案、普及活動にも力を入れる

荒木社長はこうした現状に危機感を抱き、普及をはかる取り組みにも注力している。手本としているのは博多めんたいこで、「同じ魚卵系でありながらパスタに和えたり、ピザのトッピングにしたりと洋食との組み合わせがバツグンなので、参考にしていきたい」と。その一環として、ふぐの子をせんべいに練り込んだ商品や相性の良いチーズとのコラボ商品、調理しやすいようにあらかじめスライスした商品などを世に送り出したり、洋食とかけ合わせる提案も積極的にすすめている。荒木社長は「現状の知名度はめんたいこの足元にもおよばないが、いつか追いつき追い越したい」と将来のビジョンを描いている。

「ふぐの子の知名度をめんたいこのように全国区にしたい」と語る荒木社長
木桶に漬け込む伝統製法

川元 浩
美川商工会経営指導員

㈲荒忠商店は地域を代表する老舗企業です。とくに同社の看板商品「ふぐの子糠漬」は伝統の製法を守り、地元産の米糠、麹、国産塩など天然の素材にこだわり抜いた逸品です。「殿の肴セット」 はふぐの子糠漬とふぐの糠漬・粕漬の詰め合わせで、ギフト用として人気ですし、銘酒「常きげん」の吟醸酒粕に漬け込んださばへしこ吟醸仕込も酒どころ加賀ならではです。国産サバを使ったへしこも、全国にリピーターが多い一品です。加賀の自慢の味を、ぜひご賞味ください。