出来栄えが視認できる木工品を自社製造

グランドピアノに代表される鏡のような光沢。塗装後に研磨することで高級感を醸し出すこの加工は鏡面塗装あるいはピアノ塗装と呼ばれるが、この分野を得意としているのが石川塗装工業㈱だ。ピアノ製品の売り上げは全体の80%に達しており、残りがキッチンや家具・装飾品などの住設関連。外国人に人気の高級オーディオや特注家具など希少性の高い木製品塗装では群を抜く存在感を示している。

もちろん、そのこだわりは並々ならぬものがあり「ただ光っていればいいというわけではない」と松井主税・工場長(46歳)は話す。鏡面塗装は製品に塗料を吹きつけ、乾燥、研ぎ、磨きという工程を経ていくが、その際に同社は汎用性が 高い低価格のウレタン塗料やABS樹脂ではなく、ポリエステル塗料を使用しているという。「硬度が高くてキズがつきにくい通常の塗装(ウレタン塗装)の塗膜厚より、10倍の厚みをもつ。その厚みを形成することで、より深みのある色となる。色だけでなく、木目を生かした鏡面塗装によって薄い板(ツキ板)を貼った木材を、高級感の漂う木材へと変えることができる」と松井工場長。同社ではこの塗料を何度も塗り重ねて層をつくり、乾燥後に表面を徐々に削って平滑にし、研磨剤で磨いていくのだ。いずれも「徹底した微細作業であり、細分化すると20工程にもおよぶ。なかでも研ぎと磨きが腕の見せどころで、わずかでもミスしたら一からやり直すことになる」という。

鏡のように天井の蛍光灯が映るほど磨かれたピアノ板
国内でも数少ない木製品用の両頭バフ(研磨輪)で素材表面の磨きを行う

ポリエステル塗装を強みに販路拡大を狙う

ところで、同社が立地する静岡県浜松市は国内3大楽器メーカーが集まる〝楽器のまち〟として知られ、同社はヤマハと河合楽器製作所との取引がある。高級オーディオのラックスマンやティアック傘下のエソテリックなどからも受注しているという。「数百万円もするレコー ドプレイヤーの意匠材やアンプの外枠なども受注した。海外客が中心で、国内でも音響機器にこだわりのある人向けの製品が多いが、それだけにいつも気を引き締めて仕事に向き合っている」そうだ。他方、 住設分野ではキッチン扉の受注が多く、「デザイン性が高い特注のキッチンカウンターやトイレの装飾品などのほか、東京・銀座のビルや某大使館などに設える家具の仕事を引き受けたこともある」と話す。

さらに今、同社では「ピアノ需要は底堅く安定しているが、今後、大きく伸びていく可能性は低い」との考えのもと、「家具づくり」にも乗り出すという。「当社のポリ塗装の強みを生かし、高級家具や木工品の販路を拡大していきたい」と力強い。受注で磨いてきた技術が花開く日もそう遠くはなさそうだ。

「ポリエステル塗装の良さを発信していきたい」と話す松井工場長
“楽器のまち”に立地し、塗装、研ぎ、磨きを一貫して行える工場

高木一真さん
浜松商工会議所

石川塗装工業㈱の鏡面塗装を施した製品はまるで鏡のような光沢を放ち、実際に手に取ってみると、通常の艶がある塗装との違いが一目瞭然です。同社の高い技術力はさまざまな分野に転用できる可能性を秘めており、これからの新しい挑戦に期待をしています。塗装に関する困りごとがあれば「やらまいか精神(浜松の方言で『とにかくやってみよう』の意)」で相談にのっていただけると思います。ぜひお声がけください。