欧州からヒント、独自技術で完全水洗の仮設トイレを実現
住宅や道路などの建設現場で目にする作業員用の仮設トイレは、現在も汲み取り式が一般的だ。が、建設現場で働く女性が増え、働き方改革の機運も高まるなか、衛生と快適性の両面で仮設トイレの水洗化を望む現場の声が年々高まっている。もちろん、上水道から水を引き込めば水洗化は技術的に可能だが、水と一緒に流れた汚物を流すには下水の排水溝がそばになければならず、結局は汚物をトイレの下にある貯水槽に貯めておき、後でまとめて処理するしかないのがこれまでの実情だった。
こうした難点を克服し、完全水洗化の仮設トイレを開発したのが㈱アムだ。便器の下に水中ポンプを設置し、排水のゴムホースに送り込む独自技術を編み出した。新保昭弘社長によると「この方式なら仮設トイレを中心に直径30mの範囲内に排水溝があればホースを行き渡らせることができる」という。ポンプはファン式で汚物を砕き、ホースは直径5cmのサイズのもので対応できる。新保社長は「ポンプは電動式で汚物を強力にホースに送り込むため、ホースの配置位置の途中に壁があっても滞りなく流れる」と胸を張る。仮設トイレの衛生と快適性の向上を重視する大手の住宅メーカーなどから引き合いが相つぎ、製品化から20年で累計11万カ所もの現場にリースされる実績を築いてきた。
新保社長はこの完全水洗仮設トイレの開発について「欧州のトイレ事情にヒントを得た」と振り返る。欧州には歴史的建造物が数多くあるが、そこには基本的にトイレがなく、このポンプで圧送排水する方式でのトイレが開発されたようだ。それを参考にしたのと、新保社長自身が建設現場の経験者でもあり、現場のトイレ事情を肌で知っていたことも開発を後押しした。新保社長は「20年間の実績の過程で現場から苦情が出ればそのつど改良してきた。その積み重ねが実績につながった」と話す。
オンリーワン技術を介護分野にも応用
そして今、新保社長はさらなる完全水洗の仮設トイレの改良と市場開拓に取り組んでいる。たとえば介護業界では、自宅で寝たきりの高齢者のベッドの脇にトイレを設置し、その場で用を足せるように改良し利用者も急増している。給排水のホースを窓などを通して室内に引き込めば、立派な水洗トイレとして利用できる。このアイデアが普及要因のひとつに。「これまでは排せつのたびに介護者がポータブルトイレの用が済んだ後の汚物を処理していたが、完全水洗トイレの導入で介護者の負担がなくなった」と新保社長。「オンリーワンの技術で今後もなお一層の普及をはかりたい」と将来展望を描いている。

(株)アム
石川県津幡町竹橋西179-1 TEL:076-288-8655
設立:1984年 従業員:87名 資本金:3770万円
https://www.am-co.co.jp/

池田 亨さん
(公財)石川県産業創出支援機構
コンサルティング事業部
経営支援課 主査
㈱アムは工事現場、介護が必要な家庭、イベント会場など、けっして自由度が高くないロケーションにおける水洗式トイレの製造、設置を展開しています。新保社長は自身の建設会社での勤務経験を生かし、現場で活躍する人々のため、そして仮設トイレで困っている人たちの目線でさまざまなチャレンジを繰り返し、会社を発展させてきました。今後も国内だけではなく、世界に向けたトイレ関係のニーズに応えるご活躍を期待しています。

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