能登半島地震被災者に無料入浴サービスも
石川県小松市でビジネスホテル「小松グリーンホテル」を営む㈱アルカディアは館内に温泉施設を持ち、2024年1月に起きた能登半島地震の被災者に無料で入浴サービスを提供している。畑徹郎社長(66歳)は「被災者の多くは今なお避難所や仮設住宅で暮らしているので、利用者からは『足を伸ばしてユッタリ湯に浸かれた』と喜んでもらっている」と話す。
温泉施設は大浴場のほか、10室のバリアフリー型貸し切り風呂を備える。貸し切り風呂のうち1室は、専用の車椅子をリフトアップして車椅子のまま湯船に入れる完全バリアフリー型で、「体が不自由だったり、高齢だったりする被災者も利用できている」という。
貸し切り風呂増設でピンチを打破、朝食もすべて手作り
このホテルは1979年に開業、86年に温泉を掘り当て現在の名称に変更し、温泉施設の運営もはじめた。畑社長の話では、地元住民から「宿泊客だけでなく、われわれも利用できるようにしてほしい」という声があがり、「一般客も入浴できる公衆浴場にした」そうだ。以前は大浴場しかなかったが、コロナ禍の直撃を受けて宿泊の客足が 一気に遠のき、経営的にピンチを迎えた。こうした状況にあって、畑社長は「このままではいずれ行き詰まる」と、あえて貸し切り風呂を増設する積極策に打って出た。
増設には1億2000万円を要したが、コロナ対策の公的助成と低利融資を組み合わせて調達。2階の宴会場を潰して貸し切り風呂にリニューアルした。畑社長が思い切った勝負に出た背景には、コロナ禍前からの旅行形態の変化があった。
「これからは従来の団体旅行から個人旅行、家族旅行が多くなっていく」と踏んで英断したという。事実、団体旅行向けの宴会場は「閑古鳥が鳴いていた」そうだ。そこで思い切って「これらの休眠施設を廃止し、個人、家族旅行向けの貸し切り風呂にリニューアルした」という。温泉施設は源泉かけ流し、泉質もナトリウム塩化物泉で「筋肉痛や神経痛に効果がある」と評判だ。
また、朝食もオール手作りで、冷凍食品も使わない。そしてご飯は地元産のコシヒカリをガス釜で炊き、味噌汁の具もできるだけ地元産と「おふくろの味」にこだわっている。「近年は入浴施設を備える全国チェーンのビジネスホテルも台頭しており、われわれのような全46室程度の小さな地方ホテルが大手に対抗するには、食事などに気を配り、差別化をはかるしかない」と畑社長。「焦って規模を大きくしようとするのではなく、小さな宿泊施設ならではのきめ細やかなおもてなしを心がけたい」と話している。

㈱アルカディア
石川県小松市小島町ル41 TEL:0761-21-8911
設立:2012年 従業員:40名 資本金:3500万円
HP:https://www.komatsu-gh.jp/#

宮前哲夫さん
(公財)石川県産業創出支援機構
石川県よろず支援拠点コーディネーター
畑社長はコロナ禍で厳しい資金繰りがつづくなか、大規模な投資を決断されました。おもてなしの心をもっとも大切にしながら、顧客満足度の向上、修繕費の積み立てや従業員が満足できるための向上策など、中長期的な視点でホテル経営を考え、すばやく行動に移していました。これから先、アルカディアが大手にはマネのできないきめ細かなサービスで、今以上にお客様に喜ばれるホテルとなることを願っています。

月刊『コロンブス』4月号 絶賛発売中!
本記事は地域における〝産業栽培〟をテーマとした月刊『コロンブス』4月号に掲載されています。同誌では毎号、全国12エリアの元気企業・躍進企業の記事を掲載‼ ぜひご一読ください。