材料の調達から納品まで、一気通貫が強点

精密機械部品・治工具加工のミツワハガネ㈱はチャレンジ精神にあふれる企業だ。鋼材の問屋としてスタートし、精密機械部品・治工具の製造へと事業拡大、そして2005年には、それまでまったく無縁だった航空分野に参入をはたした。

ご縁は、国内の航空機関連メーカーから治工具納入の相談を受けた際、航空機のランディングギア(機体が着陸するときに車輪の出し入れを制御する装置)の部品開発を打診されたことだった。当時の社長で現・会長の甲斐千尋氏(71歳)は「未知の分野で不安があったが、世界を向こうに思い切って挑戦してみよう」と決意し、さっそく参入要件となる航空宇宙品質マネジメント規格「JISQ9100」を九州の中小企業としてはじめて取得し、関連部品をつくりあげた。

現在では国内唯一のランディングギアメーカーに部品を納めている。「世界に打って出る」という吉ノ薗順也社長(50歳)の言葉通り、その製品はボンバルディア社など国際的な航空機メーカーの機体に使われ、世界に大きくつばさを広げている。この成功の裏には、鋼材を仕入れて販売するという創業時の本業で積み重ねたノウハウがある、と吉ノ薗社長。材料の調達から加工、納品にいたるまで一気通貫で対応できるのが当社の強みだ、と。だから「鋼材の特性にマッチした高品質な製品を納品できている」と話す。

高い品質を支える製造設備
ミツワハガネが部品を提供するランディングギア

地元企業と共存・共栄し、地域全体で成長

同社のチャレンジ精神は、従業員のスキルにも反映されている。たとえばコンピューターで設計や製図を行なうCADシステムの操作にしても、担当者はたんなるオペレーターにとどまらず、システムのプログラムを組むことまで手掛け、設計部門をひとりで自己完結できる多能工となっている。吉ノ薗社長は「うちの従業員は『ゼロからの構築』をいとわない」と話す。こうした有能で意欲のある人材を確保・育成するため、同社は福利厚生の充実にも力を入れている。たとえば、仕事と家庭の両立を支援する取り組みを実施しており、男性社員の育児休暇取得率は100%だという。さらに地元中高生を対象にした工場見学やインターンなどにも尽力しているそうだ。

こうして事業拡大と人材確保・育成に励み成長をつづけるミツワハガネ㈱。吉ノ薗社長はさらなる成長を見据え、「地元企業との共存共栄を目指す」という創業者の経営理念を受け継ぎ、「県外企業との取引で得た『外貨』を地元に落とし、地域の発展に貢献したい」と使命感を燃やしている。

 

 

「航空分野参入で自社の可能性が高まった」と語る吉ノ薗社長
従業員の福利厚生にも力を入れている

松尾靖彦さん (公財)
宮崎県産業振興機構
企業成長促進室

同社は“ものづくりから夢づくり”を標榜し、創業以来65 年間、時代の変遷に応じて〈特殊鋼材販売〉から〈精密機械部品製造〉、〈航空機部品製造〉へと事業領域拡大をすすめてきました。治工具製造や徹底した品質管理といった武器に加えて、九州企業ではじめてのJISQ9100(航空宇宙品質マネジメントシステム)認証取得後は、旅客機のランディングギアなどの製造・加工も手掛けています。現場社員の多能工化や福利厚生の充実にも力を入れる当社の活躍に、モノづくりの魅力を次代に伝える大切な会社として要注目です。