重衣料の縫製にシフトし、世界的ブランドも受注
経済産業省が2024年5月に公表した「繊維産業の現状と政策について」によれば、22年の国内アパレル市場における衣料品の輸入浸透率(数量ベース)は98.5%。一方、国内製造の割合はわずか1.5%に留まっている。1991年は50%だったことを考えると、国内アパレル縫製産業の急激な衰退ぶりが窺える。
そんななか、山形県新庄市で30年以上にわたり縫製業を営んでいるのが㈲ワールド企画だ。同社はもともとスポーツユニフォームを中心に軽衣料の縫製を得意としていたが、他社との競合を避けて徐々にコートやダウンジャケットといった重衣料にシフト。現在は、国産初のダウンジャケットメーカーであるザンター社をはじめ、世界的なアパレルブランドの縫製を19歳から67歳までの女性従業員22名で請け負っている。
2代目の矢作有也社長によれば「重衣料は軽衣料に比べて圧倒的に工程数が多く、その分、技術が求められる。最近は重衣料を請け負える縫製工場が少なくなってきたことで受注量は増えている」とのこと。
適正価格交渉の鍵は“作業の見える化”
そして同社は一頭地を抜く技術力を生かして、業界の商習慣の改革にも挑む。「縫製業はまさに職人の世界で、これまで価格交渉はタブーとされ、発注側の言い値で仕事をするしかなかった。が、それでは従業員の待遇はいつまでも改善できず、業界を志す若者がさらに減ってしまう。タブーを打破し、縫製会社が発注側と対等に価格交渉ができる文化を根づかせたかった」という。
そこで矢作社長は、まず〝作業の見える化〟に取り掛かった。受注依頼が来た際にはまず試作品をつくるのだが、その試作品ができあがるまでに要した時間を工程ごとにストップウォッチで計測したのだ。
「たとえば機能性に優れたダウンジャケットなどは、工程数が100近くにも及ぶ。それを社内でもっとも仕事のはやい従業員に縫製してもらって時間を測り、データ化した」と矢作社長。そして「そのデータをエビデンスとして発注側に提出することで適正価格への理解が得られるようになり、値上げ交渉が成功しやすくなった」という。
実際、この取り組みは効果てき面で、実施前の2020年と比べて24年の売り上げは約3割増加した。従業員の待遇改善にもつながっている。「縫製業界を取り巻く環境は依然として厳しいが、収益性を上げてサステナブルな経営を継続していきたい。次代を担う若い世代が希望をもって飛び込める業界にしていく」と矢作社長の決意は固い。

㈲ワールド企画
山形県新庄市金沢806-19 TEL:0233-23-4530 設立:1992年 従業員:22名 資本金:300万円
HP:https://world-kikaku.com/

髙橋 潤さん
新庄市商工観光課課長
新庄市では、縫製業が地域の主要産業のひとつで貴重な雇用の場となっております。2023 年の経済構造実態調査によれば、市内には 108 の製造業事業所があり、そのうち繊維工業は 19 事業所で全体の 17.6㌫を占めています。そのなかでも、同社は重衣料分野で独自の技術と信頼を築き、地域経済と雇用を支えています。縫製業を取り巻く環境は依然として厳しい状況ですが、今後の発展が期待される企業です。

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