発災1カ月後には営業再開
2024年の能登半島地震は石川県に甚大な被害をもたらし、なかでも志賀町では136人の死傷者(災害関連死含む)と9000棟以上の建物被害が出た。創業100年超の老舗和菓子店、御菓子の小堀も大きなダメージを受けた事業者のひとつ。
幸い店主の小堀正宏氏(67歳)、妻の京子氏(64歳)をはじめとする6人の従業員は全員無事だったが、店舗軒自宅は大規模半壊の判定を受けて営業停止に追い込まれ、小堀夫妻も避難所生活を余儀なくされた。正宏氏によると、震災直後の避難所は炊き出しの態勢がまだ整わず、備蓄の非常食もたちまち底をつき、約300人の避難者は空腹に耐えるしかなかったという。
正宏氏はそれを見かねて、壊れた店に戻り、冷凍保存してあった和菓子を持ち出して避難者に振るまったそうだ。「ささやかながら避難者のおなかの足しになり、おおいに喜ばれた」と振り返る。「菓子も災害時は貴重な食料」と気づかされた正宏氏は、発災約1カ月後に損壊したままの作業場で復活した水道水を使って菓子作りを再開。商品はスーパーや道の駅で販売し、被災者に届けた。その後、地元の仮設商店街に仮店舗を設けて製造と販売をはじめた。
「いがら饅頭」と「チーズまんじゅう」で復興を後押し
同店の看板商品は「いがら饅頭」と「チーズまんじゅう」のふたつ。前者はこしあんをもち米の生地で包んだ郷土菓子で、モチっとした食感が楽しめる。後者はクリームチーズの入ったあんをバター入りの生地でくるんだ洋風焼き菓子で、志賀町のふるさと納税の返礼品に指定されている。正宏氏は「チーズまんじゅうは震災復興で派遣された自治体職員や土木作業員らにも好評。派遣元に帰還する際にお土産として買って帰る人が多い」と話す。
「災害は被災地がもともと抱えていた地域課題を増幅させる」とはよくいわれているが、志賀町も震災前から直面していた少子高齢化、過疎化の波が震災で加速している。
正宏氏も「店の両隣と向かいの家も震災を機に地元をはなれていった」と表情を曇らせる。それでも「住民が減って市場が縮む一方だが、地元のお菓子を守る意味でもこの地で踏ん張りたい」と決意をあらたにする。同店は長男の一馬氏(35歳)が跡を継いでおり、従来の店舗軒自宅を解体してその地にあたらしい建物を構えて再出発する予定だ。前途は厳しいが、なんとかして100年の歴史を継承していってほしい、そう思う。
御菓子の小堀
石川県志賀町富来領家町甲59-1(仮設店舗) TEL:0767-42-0025
創業:明治時代中期 従業員:6名(パートタイマー含む) 資本金:――

岡本明希さん
(一社)志賀町観光協会
志賀町の富来地区は能登半島地震のなかでも被害が大きかった地域で、多くの家屋が全壊、半壊しました。御菓子の小堀さんは富来で唯一のお菓子屋さんで、「いがら饅頭」などの郷土菓子を手掛ける老舗店です。地域に先駆けて事業を再開されただけでなく、富来商工会女性部部長だった京子さんは、発災直後から女性部の方に LINE などで被災した方への助言をしてくれました。息子の一馬さんは商工会青年部の部長として、家族ぐるみ、地域ぐるみで復興への道を歩んでいます。

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