柔軟で多様な受注スタイルが強み

地方の零細企業からスタートし、全国制覇をはたした会社といえば、衣料メーカーのユニクロ(柳井正社長)を思い浮かべる人は多いだろう。1949年に山口県宇部市に衣料品店を開いたのにはじまり、今では国内外に約2500カ所の店舗を展開する世界企業に成長した。山口県にはこのユニクロ以外にも、国内の衣料関連市場で頂点をひた走る企業がある。それが縫製業の中村被服㈱だ。幼稚園や保育所の制服の製造・販売を手掛け、その納品先は全国に約4000カ所、市場占有率は10%と業界トップクラス。中村顕社長(58歳)は地方から全国進出できた理由について「本業にまじめにコツコツと取り組んできた結果だ」と話す。

幼稚園、保育所の制服はデザインが比較的画一的な学生服と違い、オリジナル性が求められる。中村社長によれば「とくに幼稚園は寺や教会の運営が多く、オンリーワンの意匠にこだわる」という。これはビジネスの観点からすると生産効率が悪く、経済合理性には合わない。実際、「多すぎる製品群を整理し、生産効率を上げたほうがよいのではないか」と考えることもあるそうだが、「歴代の経営者が一つひとつの注文に丁ねいに応えてきたからこそ、当社の今がある」と、あくまで「大手メーカーにはマネのできない、柔軟で多様な受注スタイル」を貫き、それを強みとしている。

「地方から全国へ」を目指す中村被服の中村社長
従業員は全員日本人

創業時の精神を守り、超地元雇用を徹底

また、同社は幼稚園や保育所の制服のほか、制帽も生産している。イチオシは衝撃緩和材で子どもの頭を保護する「まもる君」。子どもの頭のケガの部位の8割が前部と後頭部に集中するという統計を見て着想した製品で「帽子の前と後にクッションを織り込み、サイドは通気性を高めることで安全性と快適性を両立した」という。この機能性が評価され、20年度のキッズデザインアワード(NPO法人キッズデザイン協議会主催)で奨励賞を受賞した。

同社の従業員はすべて日本人で、しかも全員が通勤15分圏内に居住する地元雇用を徹底している。中村社長によれば「当社の創業時は戦後間もなくで戦争未亡人が少なくなかった。創業者はそんな彼女たちの生計を支えたいと多くの地域の女性を雇い入れた」という。中村社長はその精神を受け継いでいるのだ。顧客のニーズに丁ねいに応え、地元密着を貫く、これこそ地域経済を支える中小企業の生きる道ではないか。

縫製技術は他分野にも
園児服を通して子どもたちの成長を見守る

入江孝治さん
ほうふ日報 代表取締役

中村被服㈱は創業 100 年を超える老舗企業、園児服と保冷ボックスが主力商品で、それらを製造から販売まで一貫して手掛けているのが特徴です。地元小学生の通学カバンなどもつくっています。社長の中村顕氏は地元の経済交友会の代表幹事、相談役の中村元彦氏は商工会議所副会頭を務めるなど、地元経済の活性化にも貢献しています。3 年前には今後 100 年を見据え、工場隣接地に新社屋を建てられました。今後のさらなる飛躍を期待しています。