仙台市街から西に車で30分、秋保温泉郷の中心部にある秋保ワイナリーは、㈱仙台秋保醸造所が経営する年間生産量3万5000本(750㍉㍑)の小規模ワイナリーだ。オーナーの毛利親房社長は「もともとワインについてはまったくの素人の状態からワイナリーを立ち上げた。一からブドウを栽培するところからスタートし、現在は約2㌶のブドウ畑に12品種のブドウを約7000本栽培している」と話す。
毛利社長がこのワイナリーを設立することになったキッカケは2011年の東日本大震災だった。「仙台市の設計事務所で震災後の復興支援策に携わるなかで、なんとか宮城県の特産品や食べ物を応援したいと思い、地元産のワインを造ろうと思い立った」と毛利社長。ちなみに、宮城県内にはかつて山元町にワイナリーが1軒だけあったそうだ。が、そのワイナリーが東日本大震災の津波で流され宮城のワイン産業が途絶えてしまったため、宮城のワイン産業を復活させるべく、秋保ワイナリーは震災後、県内唯一のワイナリーとしてスタートを切ることになったという。
ワイナリーの立ち上げにあたって、毛利社長が掲げたのは「宮城のワインで宮城の食・生産者を応援する」こと。「独自に山形のワイナリーでブドウの栽培方法やワインの醸造方法などを学び、ブドウ栽培に適した気候と土壌が揃った秋保を栽培地に選んだ」と話す。しかも、最近は人材育成にも取り組むなどして周囲にも好影響を与えており、県内のブドウ農家も増え、ワイナリーの数も6軒にまで増えたという。

「ワイン文化、ワインツーリズムの普及に注力したい」と話す毛利社長は、米国・シアトル生ま れ。東京のゼネコンで設計や施工管理に従事、2003年から仙台の設計事務所に10年以上勤務し、 11年の東日本大震災の後は被災地の復興支援を目指した復興提案を行ったという
秋保ワ イナリーに併設されたカフェ。ショップではワインの試飲などができるほか、ワインセミナーなども展開している

そんな秋保ワインの販路は主に県内で、とくにワイナリーに隣接するカフェやショップでの販売が60㌫を占めるという。「秋保は温泉をはじめとした観光資源が豊富で、県外からの観光客が多い。秋保ワイナリーでも例年多くのゲストを迎えているが、コロナ禍で昨年4月、5月の売り上げは前年同月比で8割減、9月から12月はGo Toトラベルでだいぶ回復したが、全体では前年比2割減と厳しい状況となった」と毛利社長。そうしたなかにあって、毛利社長はワイナリーの経営のかたわら、東北6県が共同ですすめる体験型食のツーリズム「テロワージュ東北」のリーダー役も務めているという。「『テロワージュ』は気候風土と人の営みをあらわす『テロワール』と料理や酒のマッチングをあらわす『マリアージュ』を組み合わせた造語で、酒とともに東北が誇る食、人、文化、風景を体験してもらう新しいツーリズムのあり方を意味している。今年からウェブサイトやECサイトを立ち上げるなどして普及に力を入れていくので、期待してほしい」と意気込んでいる。あらたなワイン、そしてテロワージュの歴史が秋保からはじまろうとしている。今後の展開に期待大である。