㈱池田工務店 東京都八王子市
コロナ禍を機に人々の休日のすごし方が大きく変わったことで、クルマの整備など趣味のための空間を求めて都心から郊外へと引越したり、「ガレージアパート」をセカンドハウスとして借りたりする人が急増している。そんななか、東京都八王子市の老舗工務店、㈱池田工務店があらたにはじめたガレージ事業が好調だ。さっそく、池田壯(さかえ)社長と息子で専務取締役の勇介氏(上写真)に話を聞いてみた。

地元の八王子市を中心に、長年にわたって注文住宅やテナントビル、社寺など幅広い建築ニーズに応えてきた㈱池田工務店。だが、2代目の池田壯(さかえ)社長(68歳)によれば「ここ10年ほどはハウスメーカーの安価な建売住宅の普及を背景に注文住宅の受注が減少し、建築・土木関係の公共工事などの仕事が多くなってきた」そうだ。
ところが2〜3年前から、こうした状況が一変。「お客さんから希望の間取りや設備、内装材などをヒアリングし、その希望をシッカリ取り入れて建築現場の管理を手掛け、竣工後のアフターフォローまで行う工務店の魅力が見直されており、ホームページなどを通じて注文住宅に関する問い合わせが着実に増えている」という。
そこで創業70周年を迎えた2020年、同社は注文住宅の受注増を目指し、あらたにガレージ事業を立ち上げることに。「私自身が大のクルマ好きということもあり、趣味の空間も兼ねた高付加価値なガレージをつくってみようと考えた」と池田社長。そして「もうすぐ定年を迎える同年代の仲間たちも同様のスペースを欲しているし、広々とした土地を確保しやすく、自然豊かな多摩地域ならニーズがあるのでは」と、まずはモデルハウスを建ててPRしていくことに。
そのプロデュースや営業を一手に引き受けたのが、池田社長の息子で専務取締役の勇介氏(36歳)だった。聞けば、このモデルガレージハウス「Shaco HACHIOJI」のコンセプトは「大人を愉しむガレージハウス」。従来のたんなる「車庫」や「クルマの整備をする場所」ではなく、「仲間同士で集まってクルマ談義をしたり、プロジェクターで映画上映会をしたり、釣道具やサーフィン道具、アウトドア用具などの収納や手入れに使ったりと、オールマイティな趣味の空間として提案している」という。

趣味の空間と住空間が一体となったガレージモデルハウス「Shaco HACHIOJI」
今年のゴールデンウィークにはキッチンカーを呼んでの内覧会も開催したという

ガレージと住宅がセットになっているのも特徴的だが、かといってただの「ガレージ付き住宅」ではなさそうだ。キッチンがカウンターを挟んでガレージとつながっていたり、リビングではソファでくつろぎながらガラス戸越しにクルマを眺められたりと、「趣味の空間と住空間が一体となる」よう随所にさまざまな工夫が凝らされているのだ。「ガレージ事業単体で大きな収益を上げるのは難しいが、このように趣味を存分に楽しめる空間づくりをアピールすることで、注文住宅の受注増につなげていきたい」と勇介氏。すでに今年3月12日のグランドオープンからの数カ月で約100組が「Shaco HACHIOJI」を内覧し、そのうち20組以上が自宅へのガレージ設置やガレージのあるセカンドハウスの建設などに向けて具体的な話をすすめているとのことで、出足は好調だ。「大手メーカーに依頼すると、どうしても建物の仕様がいくつかのパターンにかぎられてくるが、当社は小回りの利く工務店ならではの強みを生かし、ゼロからヒアリングして細部までお客さんのこだわりに応えるよう努めている。その姿勢を高く評価してもらっている」と胸を張る。

ガレージスペースの奥には、バーベキューが楽しめるウッドデッキも。材は反りや腐りが少なく耐久性があるセランカンバツ材を採用
ガレージスペースとキッチン(右側)がつながっている。壁はOSB合板で、ビスやクギなども使えるのでさまざまな道具を壁に吊るせる。天井は開放感ある勾配天井
暖炉があるリビングルームからはガラス戸越しにガレージのクルマを眺められる
キッチンスペース。このほか、洗面台とトイレ、シャワーもある
                             

今後はこれらの案件を着実に形にしていくとともに「より多様なガレージのモデルハウスをドンドンつくっていく」と勇介氏。たとえば物置や倉庫をガレージにカスタマイズするタイプ、クルマを入れずに趣味の道具をきれいにしまえる安価な「一坪ガレージ」など、「予算や広さ、用途などに応じて、多様なガレージを提案したい」と意気込んでいる。
さらに勇介氏はこのガレージ事業をすすめるかたわら、「これまで以上に地元密着型の工務店としての存在感を高め、八王子市内で多数の現場を手掛けられるよう、さまざまな形で地域の方々と接する機会を増やしていきたい」とも。その一環として「自社所有の木工場を工房に改装し、DIYに興味のある地域住民のための木工教室や木工機械のレンタルなどをはじめる」構想も温めているそうだ。こうした取り組みは多摩地域での認知度アップにつながるはず。その勢いでガレージ文化のさらなる普及に努めてほしいものだ。