「日本酒を仕込む杜氏の肌は美しい」といわれているほど、日本酒にはさまざまな栄養素が含まれている。天然保湿成分の「α─EG」もそのひとつ、「石川県産」にこだわる㈱MOYUは県内の酒蔵とともにこの天然成分を活用したシャンプーづくりに取り組んでいる。
「若いときの無謀な挑戦が結果的に 成功につながった」という 小坂社長
                                 

一般的な天然素材を使ったシャンプーは、肌にやさしく、かゆみや臭いを抑えたりする効果があるとされているが、価格は1本5000円以上と高級で、知名度も低くほとんど市場に出回っていない。それでも同社は「α─EG」入りのシャンプーを1本1万3750円(800㍉㍑)という高価格で、月400万円も売り上げているという。この驚きの売り上げを実現した背景には小坂治美社長(58歳)のなみなみならぬ「執念」がある。県内の化粧品会社に勤めていた小坂社長は、結婚と子育てのために退職した後、個人でフェイシャルエステを開業。40代になって自身の抜け毛が気になるようになり、天然由来のシャンプーを使用してみたところ、2カ月ほどでその効果を実感できたという。そして、同じ悩みを持つ人の力になろうとMOYUを設立し、そのシャンプーを美容室で取り扱ってもらうために県内を営業で回りはじめたそうだ。

しかし、営業先でかけられた言葉は「石川らしさがない」という厳しいものだった。こうして「付加価値がなければ、どんなにすぐれた商品でも受け入れてもらえない」ことに気づいた小坂社長は、化粧品会社時代から親しみがあった「α─EG」に着目。「石川の地酒から成分を抽出すれば、石川らしさが出せるのではないか」と、大学や研究機関に協力を依頼して回ったという。そして、最終的に金沢工業大学で「α─EG」の研究をしている尾関健二教授から「成分を提供してくれる酒造会社を自分で見つけてくること」を条件に協力を取りつけることができたそうだ。

日本酒造りには健康の可能性が 秘められている

この条件を達成するために、小坂社長はすぐさま石川県内の酒蔵を手当たりしだいに回ったが、当初は苦戦がつづいた。10軒近く回っても良い返事はもらえず、「もう商品化は難しいのではないか」と途方に暮れることもあったという。ところがある日、尾関教授から「白山市の車多酒造の常務がα─EGに関心を示してくれている」という情報が。小坂社長がすぐさま車多酒造にアプローチをかけたところ、トントン拍子で話がすすみ、起業から3年目にしてついに石川産のα─EGや乳酸菌生成エキスなどを使ったシャンプー「BE WASH」が完成したという。石川県産の成分を使っていることに加え、「コンディショナーを使わなくてもシャンプーだけで十分保湿できる」といったことが高く評価され、今では石川県、富山県の美容室や皮膚科だけではなく、海外にも輸出されるように。結果、このシャンプーを利用する加盟店の数は100店を超えるまでになったそうだ。

今も東奔西走をつづける小坂社長だが、「何よりも励みになっているのは『MOYUの商品だから使いたい』という声だ」と。商品化に懸けた熱い思いは今、確実に国内外の人々の髪と心に届いている。