「あきしまの水」の魅力を
伝えるブランディング事業
日本最大級の水道専用貯水池として知られる「小河内貯水池(奥多摩湖)」、渓流釣りのメッカであり、最近ではアユが戻ってきているという多摩川上流、そして武蔵野台地の崖下からは清新な水が湧き、いたるところで井戸水が生活用水として使われている。まさに多摩は東京都の水ガメ、「水の都」なのだ。そんな多摩地域には、なんと地下深くにも巨大な水源「深層地下水」があるという。
この水を存分に活用しているのが、多摩地域中部に位置する昭島市。「深層地下水100%」で水道を引いている東京都で唯一の自治体なのだ。「深層の水」といえば、太陽の光が届かない水深200㍍以深の「海洋深層水」が有名だが、これに対して深層地下水とは、山に降った雨や雪が数十年かけて地下深くに滲み込んだ水のこと。昭島市市民部産業活性課の板谷麻理子氏によれば「土壌がフィルターの役割をはたし、不純物を取り除くとともに、炭酸やミネラル成分などが溶け込むことで、きれいでおいしい水になる」そうだ。「1年中、水温が安定しているので、夏は冷たく、冬は温かく感じる」とも。昭島市の地層はほかの地域と比べて、水を通して貯める砂利層が厚く形成されているため、この深層地下水がとくに豊富。「市内には深さ110~250㍍の20本の深井戸があり、そこから汲み上げた深層地下水を各家庭に送っている」という。つまり昭島市ではどこでも、蛇口をひねればミネラルウォーターのようにおいしい水が出てくるのだ。
市は2015年からこの深層地下水を「あきしまの水」としてブランディングし、きれいでおいしい水のある生活環境をウリに「住んでみたい、住み続けたいまち」を広くPR。その一環で「あきしまの水」を使い、守っている人たちの声をまとめた冊子をつくったり、子どもたちに水や森林をテーマとした環境教育を実施したり、「あきしまの水」を無料で体感できる給水スポットを設置したり、といった活動をつづけている。
市民や市内事業者に
親しまれる重要インフラ
当然、市内事業者もこの水をさまざまな形で活用している。その代表例が飲食店だ。たとえばJR東中神駅の近くにある「手打ち蕎麦塾・和」の店主、矢崎和夫氏は「市外でそば打ちをするときにはかならず『あきしまの水』を持っていく」と話す。「雑味がなく、まろやかなこの水で打つと、そばならではの風味がよりシッカリと際立つ」そうだ。
「あきしまの水」を地域活性化に生かした例もある。拝島駅前商店会による「拝島ハイボール」開発プロジェクトがそれだ。約2年前、「駅周辺の再開発がひと段落つき、生まれ変わった駅前通りを盛り上げていくために名物をつくろうと相談するなかで、多摩地域の老舗酒蔵とコラボして『あきしまの水』を使ったオリジナルのハイボールをつくる案が持ち上がった」(会長の岡部恒男氏)という。この「拝島ハイボール」を発案したのはJR拝島駅前の「K’s Bar」を営む大須賀清史氏。大須賀氏によれば、そのレシピの基本ルールは、まず「あきしまの水」で強炭酸水をつくること、福生市の石川酒造のリキュールを使うこと、お酒と炭酸水の割合は1:3を目安とすること、そしてティースプーン1杯ほど柑橘果汁を加えることの4つ。使うリキュールは2種類で「『拝島ハイボール白』は熟成酒に多摩産の杉のチップをつけこんだリキュール『東京の森』がベースの一杯。対する『黒』のベースは、日本酒の原酒に黒ビールの麦芽を加えた新感覚リキュール」。いずれもさわやかな飲み口が評判だ。今ではすっかり地元の名物として定着し、駅前商店会の16店舗の飲食店で提供されている。
このように、「あきしまの水」は市民の生活や飲食事業者にとっての重要なインフラ、地域活性化につながる魅力的な特産品となっている。そしてもちろん昭島市には飲食事業以外にも、藍染や食加工品製造など、この深層地下水の水質を生かした作品づくりやモノづくりの事例が満載。昭島市を訪れた際はぜひ、「あきしまの水」を味わってみてほしい。
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東京TAMAらん!旅図鑑 vol.2 ~深層地下水100%のまち⁉ あきしまの水~
「あきしまの水」については、東方通信社グループの YouTubeチャンネル『コロンブスTV』の番組「東京TAMAらん!旅図鑑」でも体験リポート動画を公開中‼ ぜひご覧ください。